藍鼠

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No.2915
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🐺彰人×赤ずきん衣装こはね
幼馴染設定な書きかけパラレル彰こは。
このあと彰人はこはねを抱きまくらにして寝る。🐺なのに🐺要素がないよお

***

 鼻先をふわりと掠めた甘い香りに誘われてまぶたが震える。
 昨日は相棒――冬弥とともに夕方まで狩りをして、明け方近くまで鍛錬に費やし、帰ってきたのが数時間前。諸々を済ませてベッドに入ったばかりだというのに。眠気よりも玄関先から香ってくる好物への関心が強いせいだ。
 ドアの前まで来ておいて、ぴたりと止まったまま微動だにしない客人はノックをするかどうかで迷っているらしい。

(……こはねのやつ、なにしてんだ)

 コン、コン、コン。
 ノックの間隔と響く音の小ささに、思わず笑い混じりの吐息がこぼれた。
 脳裏をよぎったのは、彰人の手ですっぽりと覆える大きさの拳。白くて柔らかな手のひら。最近の彼女は薬草採りに精をだしているせいか、細々とした怪我をしていることもある手だ。掠り傷や切り傷を見るたびに舐めて口に含みたくてたまらなくなる細い指。

「……東雲くん、おはよう」

 キィ、と遠慮がちに開かれるドアからひょこっと顔をのぞかせた幼馴染は「入ってもいい?」と小さな声で訪ねてきた。
 おう、と相槌を返したあと、あくびをしながら立ち上がり、半端に開かれたままのドアを引いて彼女を迎え入れる。

「――うまそうなにおい」
「ふふ、東雲くんのお母さんからだよ。私のお母さんからも」

 彰人を見上げ、両手で籠を掲げながらこはねはにこにこしている。
 彰人は屈んで彼女の首元へ顔を寄せ、すん、と鼻を鳴らした。彰人の“好物”は、今日もおいしそうな匂いがする。

「東雲くん?」
「……んー、いつ食うかなって」
「お母さんたちは早めに食べてって言ってたよ」

 この距離でもまったく彰人の意図に気づかないのをいいことに、会話が成り立つように調子を合わせて笑う。籠を引き取りつつ彼女をドアの内側へ誘導し、扉を閉めて鍵を掛けた。

「東雲くん眠いの?」
「ちょっと前に帰ってきた」
「えっ!? ご、ごめんね……」
「それより、お前今日草採り行く日だろ。オレもついてくからな」

 すぐにでも帰ると言い出しそうな空気を察して強引に話題を変えると、彼女はぱちぱち瞬いて悩ましげに口元へ手をやった。

「うーん……嬉しいけど……」
「なんだよ」
「今日は森の奥までは行かないし、ひとりでも大丈夫だよ」
「駄目だ」
「……じゃあ、戻って絵名さんにお願いしてみる」
「あいつが動くわけねーだろ」

 と、断言したものの、こはねには甘い絵名のことだ。
 彰人が言えば「は?」「めんどう」「嫌」で済ませるに決まっている内容でも、重い腰を上げるかもしれない。
 しかし、そんなことをわざわざ言う必要はないだろう。こはねについていくのは自分だけで十分だ。

 こはねはどうしても薬草採りに行きたいらしいが、彰人がついていくことには妙に渋る。なんでだ、と問い詰めた彰人に対して「ちゃんと寝てほしい」と心配だと言いたげな下がり眉で返されてしまった。

「……そういやいいもんあるんだった」
「いいもの?」

 カシャン、と軽い金属音とともにこはねの手首へ嵌まった黒い錠。そこから繋がる鎖を介し、もう片方の錠は彰人自身の手首へ嵌めた。
 捕獲用に使っている罠のひとつ。獲物に合わせてサイズが変わるうえ鎖の長さも調整可能な優れものである。

「え…、え!? しの、しののめくん!?」
「これで逃げらんねえだろ」
「……あの、東雲くん、寝るならベッドで寝たほうがいいよ」
「そうだな」

 眠さのあまり奇行に走ったと思われているのか、こはねは心配そうな顔のまま彰人をベッドへと促してくる。この様子なら、少しくらい味見をしても寝ぼけていると判断するかもしれない。
 ひょいとこはねを抱き上げると、小さな悲鳴が上がり首にこはねの腕が巻き付く。彰人はこらえきれずに笑いながら、シャラシャラと鎖の鳴る音をBGMに獲物をベッドへと運び込んだ。
 
畳む


#彰こは

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