Vischio

彰人誕カード(2023)サイスト後編その後の彰こは妄想


 セカイで十分遊んだあと、自室へと戻る直前だったこはねを捕まえる。
 それはほとんど無意識に近くて、目を丸くしたこはねとオレを見ていた杏が「なんで彰人が驚いてんの?」と笑い混じりにツッコんできたくらいだ。
 明日も朝からたっぷり練習がある。だから早めに寝ないとヤバい。わかってるのに──今日は、もう少しだけ我が儘を言いたい気分だった。
 ぱちぱちと瞬いたこはねが柔らかく目を細め、一歩オレの方へ寄ってくる。背後を振り返り、冬弥と杏に向かって「また明日」と手を振るから、つられてふたりの方へ目をやった。

「こはねのことあんまり遅くまで引き止めないでよね。おやすみー」
「おやすみ。また明日」

 オレの返事を待つことなく姿を消したふたりをぼけっと眺めていたら、こはねの手首を掴んでいた手の甲に触れられて肩が跳ねた。

「逃げないよ?」

 笑い混じりに言うこはねが手を揺らす。それをぐっと引き寄せて、肩に腕を回しながらこはねの頭に頬を寄せた。

「東雲くん、」
「……もうちょい」
「えっと……私も、東雲くんのこと……ぎゅって、したい」

 こはねはオレの肩にぐいぐい額を押し付けつつ、小さな声で照れくさそうに言う。こいつかわいすぎないか?
 掴んでいた手を離せば、言葉どおりこはねがオレの背中に腕を回して抱きついてくる。密着する柔らかさと微かに聞こえてきた嬉しそうに笑う声で、一気に体温が上がった気がした。
 この、頭がぐらぐら揺れるような感覚はヤバい。息ができなくなるくらいキスして、こはねをなかせたくなる。
 衝動を誤魔化すために緩く長く息を吐きだしていたけれど、そんなオレの葛藤なんて気づきもしないこいつは胸元でもぞもぞ動く。押さえ込むように抱きしめれば「むー」だか「ゔー」だか、やたらかわいいうめき声とともにペシペシと背中を叩かれた。

「こはね……離してもいいけど、いま離したらキスするからな」

 驚いたのか抱きしめた身体がビクッと大きく跳ねる。次いでオレの服を握りしめたらしく、引っ張られる感覚があった。

「……いい、よ」
「──なにが」

 こはねの口から言わせたくなってわざとはぐらかす。抱きしめていた腕を緩めてこはねを覗き込むと、潤んだ瞳と赤い顔にぶつかった。

「あの……だから……キ、キス」

 すぐに焦点をずらしたこはねが忙しなく瞬きを繰り返すのを見下ろして、震える唇からたどたどしくこぼれる声に耳を傾ける。
 キスって言うだけなのに、照れまくって小声になるこはねがかわいい。あとなんかエロい。
 余計ムラムラしたって話せばどんな反応をするのか気になったけど、もう限界が近かった。

「……していいんだな?」
「私も、したい、から──」

 こはねがぎゅっと目を閉じて、オレの後押しをするところまでは聞いた。そこから先はオレの口の中だ。

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