Vischio

優しさ8割、牽制2割


 ヴー、と不意に聞こえた微かな振動音。同時に握ったままだったスマートフォンが震えるのを感じて、こはねは歩く速度を落としながらスマホを胸元へ持ち上げた。
 杏との待ち合わせ場所へ向かっている途中だったけれど、内容を確認する時間はある。立ち止まり、道の端へ寄ってから画面を見れば、杏からのメッセージを受信したという通知だった。
 画面に表示されているメッセージの冒頭部分には“ごめん”の文字が見えて思わず瞬く。急な用事や体調不良の可能性を考えながらアプリを開いたこはねは、メッセージの全文を確認してほっと胸を撫で下ろした。

 ――こはね、ごめん! 急に先生に呼ばれちゃったから少し遅れそう。あったかいとこで待ってて!

 どうやら杏と計画した学校帰りの寄り道が中止になったわけではないらしい。
 連続して送られてきていた数個のスタンプがメッセージのあとに続いている。手を合わせて謝罪をするキャラクターがかわいらしい。どれもどことなく杏に似ているようで、こはねは無意識に笑いの混じった息を吐いた。
 白く染まったそれがふわりと空気中へ溶けていく。視覚化されたことで気温の低さを実感してしまい、こはねは思わず首をすくめた。
 ぎゅっとコートの襟元を掴んで隙間をなくそうと試みたけれど、あまり効果は感じられない。ぴゅう、と首を撫でていく風の冷たさに微かな呻き声が漏れてしまった。
 
 今日は強めの風が吹いているのに、こんな日に限ってこはねはマフラーを自分の部屋に置いてきてしまったのだ。
 昨夜なかなか寝付けなかったせいか、今朝はギリギリの起床になってしまった。寝坊した、と気持ちが焦っていたために通学路の途中までマフラーがないことに気づけず、取りに戻る時間は確保できなかった。

「……杏ちゃんは待っててって言ってくれてるけど……ちょっと動こうかな」

 自分に言い聞かせるように声を出し、両手はぐっと拳をつくる。
 ついでだから神高まで歩こうと決めて、こはねは杏からのメッセージに「学校まで迎えに行くね」と返信した。
 
 神高の生徒とすれ違う頻度が増すにつれ、少しずつ歩く速度を落とす。
 正門の前には待ち合わせと思われる生徒が数人見えて、こはねはいくらかほっとした。
 上まできっちり閉めているコートのおかげでこはねが宮女生だと瞬時にわかる人は少ないだろうけれど、他校というだけで緊張してしまうのはどうにもできない。

(すみっこの、なるべく目立たないところで待とうかな)

 こはねは一度正門から校舎のほうを眺め、ひと気の少ないところを探して視線を動かした。
 場所を定める前にびゅう、と強い風が吹き、反射で胸元を握りながら縮こまる。風が冷たい。
 先ほど効果が薄いと実感したばかりだけれど、なにもしないよりはマシかもしれない。そう思いながら襟元を押さえたものの、首は無防備なままだ。
 ――髪をおろしたら、少しくらいは防寒になるだろうか。
 思い立ち、こはねは髪をくくっていたヘアゴムを抜き取る。長時間結んでいたことによって付いてしまったクセを気にしつつ、手ぐしで髪を整えてから風で浮かないように毛先を軽く掴んでみた。

(……あんまり、変わらないかも)

 残念な気持ちで溜め息をつくと、吐息はふわふわと白いもやになって消えていく。
 髪を押さえたまま、再度目立たないところを探してきょろきょろしていたこはねは、不意に聞こえてきた彰人の声にドキリとした。
 パッと声のしたほうを見たのは無意識で、目でも本人の姿を確認した途端心臓の音が大きくなる。
 今日、彰人にはバイトの予定が入っているはずだ。直接会えると思っていなかったから、意図せず姿を見られたのは嬉しい。けれど、神高の男子生徒――冬弥ではない――に挟まれ、彼らと楽しげに会話しているところへ突撃する勇気は出なかった。
 こはねは隠れるように息を潜め、なるべく小さくなろうと身を縮める。そのままそっと彰人へ視線をやり、笑っている彼の姿につられて表情をゆるめてから正門の隅の方へ移動した。
 
 だんだんと近づいてくる声に謎の緊張感が湧き上がり、ドキドキと鼓動が速くなっていく。コートの上から胸元を押さえて思わず目を閉じたところで「こはね」と明確に名を呼ばれて心臓が止まった。気がした。

「――なんつー顔してんだお前は」

 こはねを見下ろし、ビビりすぎ、と言いながら笑う彰人を呆然と見つめ返す。

「……どうして」

 ぽつりとこぼれ落ちた音を耳聡く拾ったらしい彰人に「なにが」と聞き返され、こはねは目を泳がせた。

「東雲くんに気づかれると思ってなかった」
「お前な……」

 なんとも言えない顔で、彰人が自身の髪をくしゃりと混ぜる。言いかけで止まった言葉の先が聞きたくて改めて彼を見上げれば、彰人はずいっとこはねとの距離を詰めてから背後を振り返った。
 なにかを追い払うような仕草につられて彰人ごしに覗き込めば、彼と一緒にいた男子生徒が笑い混じりの文句を言いながら遠ざかっていくのが見える。こはねは思わず瞬き、首を傾げつつ彰人を見上げた。

「東雲くん、いいの?」
「別に、あいつらは成り行きで一緒にいただけだし――それより、お前どうせ杏待ってんだろ。なんでこんな寒いところにいんだよ」
「えっと、さっき着いたばっかりで……この辺なら目立たないかなって」
「目立ってたわ」
「え!? な、なんで……? 今日はコート着てるのに」

 こはねは自身を見下ろして、パタパタと確かめるようにコートを叩く。
 宮女のセーラー服はスカートが少しコートからはみ出ているくらいで、ほとんど見えていないはずだ。パッと見ただけでは神高生とほぼ変わらないと思うのだが――もしや肩がけにしている学校の指定カバンのせいだろうか。

「こはね、マフラーどうした」

 いつものモコモコしたやつ、と言いながら、彰人がこはねのコートの襟に触れてくる。先ほど風を防ごうと押さえつけたときによれたのかもしれない。

「今朝、寝坊して……忘れてきちゃった」
「珍しいな」

 こはねから理由を聞いて、彰人はふっと笑いの混じった吐息を漏らした。彼の手が、変わらず襟を整えるように動いているのを感じる。
 距離の近さも相まって照れが一番にくるけれど、構われるのは嬉しい。こはねは彼の行動をおとなしく受け入れながら、彰人のバイト先のことをぼんやり思い浮かべていた。めったに見に行けないが、こはねはバイト中の彰人を見るのも好きだ。

「こっちは?」

 襟から離れた指が今度はこはねの髪の先をつまむ。不意に指の背が頬を掠めたことにドキッと心臓が跳ね、顔に熱が集まっていく感じがした。

「これは、その……さ、寒かった、から」

 少しでも寒さを防ごうとしたのだと伝えている間にも、悪戯をするようにちょいちょいと軽く引かれる。
 そのせいでところどころ言葉が詰まるし、無性に恥ずかしくなってしまった。
 彰人が人目のあるところでこんなふうに触れてくるのは珍しくて、こはねの心臓はうるさいままだ。落ち着かないけれど、振り払うこともできない――したくない。
 代わりに胸元を押さえながら言葉もなく俯く。こはねの反応を見つめている彰人は妙に楽しげで、満足したと言いたげに笑ってからようやく髪を解放してくれた。

「こはね」
「な――わっ!?」

 唐突に彰人がマフラーをこはねの首に巻きつける。つい先ほどまで彰人が使っていた、黒一色のシンプルなもの。
 予想外の行動に驚いて呆然とまばたきを繰り返している間に、彰人はしっかりとこはねにマフラーを巻き終えてしまった。されるがままだったこはねは、ディスプレイとして飾られるマネキンはこんな気分なのだろうかとよくわからないことを考えていた。

「し、東雲くん」
「喉冷やすなよ」

 巻いてもらったマフラーは、彰人の体温が残っているのかとても温かい。思わずほっと息を吐き、彼のマフラーに顔をうずめて頬を緩めたところでハッとした。

「で、でも、これだと東雲くんが――ふあっ!?」
「こんな鼻赤くしといて無理すんな」

 きゅっとこはねの鼻を摘み、からかってくる彰人から思わず一歩離れる。
 指摘された鼻を両手で覆い、ひどい、と漏らしながら見上げれば彰人はますます楽しそうに目を細めた。

「……そ、それなら、借りちゃう、もん」
「おう。ちゃんと巻いとけ」
「うん……ありがとう東雲くん」

 仕上げとばかりに、今度はマフラーを整え始める彰人が思いのほか近い。額同士が触れてしまいそうで、こはねは呼吸を控えめにしながら俯いていた。

「――ん。こんなもんだろ」
「えへへ、あったかい」
「おっまえ……」

 ため息をついた彰人が、ゴツリといささか強めに額をぶつけてくる。
 う、と衝撃に身じろいで目を閉じたこはねに「杏が来るまでは絶対外すな」と呟いてから距離をあけた。

「え、と……杏ちゃんが来ても……家に帰るまで、巻いてていい?」
「……おう。じゃあ、そろそろバイト行くわ」
「あっ、待って東雲くん。あのね……返すの、今日の夜でも大丈夫かな。その、セカイで」

 咄嗟に彰人の腕を掴んだこはねは、身体を寄せつつ極力声を抑えながら問いかける。
 明日も寒いだろうから、なるべく早く返したかった。セカイでなら、多少は時間の融通が利くから直接返せるはずだ。
 言い終えて彰人を見上げれば、彼は無言のまま静止している。今日は難しいのだろうか。それなら彰人の都合に合わせたい。

「東雲く――ひゃあっ!?」
「バカ、でけえ声出すな」

 ようやく動いたと思ったら、彰人はこはねを抱きすくめ「すぐ。一瞬」と呟くように告げて再び動きを止めた。
 彰人の言う“一瞬”はこはねが思っているより長いらしい。彼に抱きしめられたこはねは、身動きが取れずに目を閉じる。やはり今日の彰人は距離が近いようだ。
 戸惑いを覚えながらもこはねは彰人に頭を擦り付け、肩の力を抜いた。照れくささが大部分を占めているけれど、好きな人に抱きしめられるのは嬉しい。
 こはねの鼓動はドクドクと速くなり、顔は熱いくらいだった。そのせいか、吐く息の白さが濃くなった気がした。

「――バイト終わったら連絡する」

 ぽつりと聞こえてきた声にビクリと肩が跳ねる。緩んだ腕に何度も瞬いているうちに視界が明るくなり、頬に当たる風の冷たさを感じた。

「う、ん。待ってるね。バイトがんばって」
「おう」

 手を振って見送るこはねに、彰人は片手をひらりと振り返してから遠ざかっていく。
 ぼうっと彼の背中を見つめていたこはねは、角を曲がった彰人の姿が見えなくなったところで座り込みそうになる足に力を入れなければならなかった。

(……顔、熱い)

 確実に赤くなっているであろう顔を隠そうとマフラーに顔を埋める。
 しかし、視界に映る黒が彰人を連想させるせいで、こはねは杏が来るまで頬の火照りを冷ますことができなかった。





◆◆◆



 お疲れ様です、とお決まりの挨拶を残し、バイトを終えた彰人は店内を通って外へ出た。
 屋内の温かさに慣れた身体に冷たい風が当たり、急速に体温が奪われていく。
 はあ、とあえて大きく吐き出した呼気の白さを確認してしまったけれど、直後に吸い込んだ空気が肺を冷やす感覚に思わず咳き込んだ。

「さっみ……」

 ず、と鼻を鳴らしながらスマホを取り出す。“ばいとおわった”と変換すらサボった文字をこはねに送り付け、彼女の反応も待たずにスマホをコートのポケットにつっこんだ。指先が冷える。

(店出る前に送っときゃよかった)

 ほんのり後悔を覚えながらも、セカイへ移動するためにひと気のない場所を探す。このあとはこはねからマフラーを受け取って帰るだけだから、なるべく家に近いところから向かった方がいいだろう。
 
 ミクたちのいるセカイは、不思議なことにいつ訪れても適温だ。
 肌を刺すような冷気から解放された彰人は、無意識のうちにゆるく息を吐き出しつつ、こはねから受信したばかりのメッセージを確認した。
 バイトを終えた彰人を労う言葉、スタンプ、それから――
 
 ――髪乾かしてから行きます。少し待たせちゃう、ごめんね。
 
 暗に直前まで風呂に入っていたのだとほのめかされ、彰人の心臓がどくりと跳ねた。時間帯的にはなにもおかしくない。おそらく自分の家でも家族の誰かが風呂に浸かっているだろう。
 それなのに、今から湯上がり直後のこはねが来るのかと思うと、気持ちが妙に浮き立って鼓動が速まる。
 彰人はそんな自分から意識を逸らすと、ちゃんと乾かしきってから来い、と真面目ぶった返信を送った。
 
 路地を抜け、練習時に使っている袋小路に向かう。
 いつの頃からか設置されていたベンチに腰を下ろすと、ほぼ同時にスマホが震えた。
 こはねかと思ったのに、送り主は彰人のクラスメイトだった。今日見たお前のカノジョを紹介してほしい、あわよくば俺にも宮女のカノジョが云々――彰人は“無理”の二文字を送り返しながら、正門前にいたこはねの姿を思い出していた。
 寒そうに縮こまる頼りない姿や、珍しく降ろしたままだった髪の柔らかさ、彰人のマフラーに顔を埋めて嬉しそうにほころぶ顔。
 こはねに声をかける直前まで、彼女に対してナンパでも始めそうな級友が近くにいたせいで、触れるという行為を制しきれなかった。

(……けど、こはねはオレのだし)

 彰人の仲間で、同志。それに加えて特別な意味で好きな相手だ。
 さらに恋人という唯一の立ち位置にいるのだから、自分のものだと主張する権利はあるはずだろう。

(でも実際に“オレの”って口に出したのはマズったかもな……)

 大きくため息をついて、先ほどからクラスメイトのメッセージを受信し続けているスマホのバイブレーションを切る。宮女のカノジョは自力でどうにかしてほしい。
 通知を消してアプリを立ち上げた彰人は、クラスメイトのメッセージに紛れてこはねからのメッセージを受信していたことに気づき、思わず腰を浮かせた。

「――東雲くん」
「っ、」
「おまたせ、ごめんね」
「いや……そんな待ってねえよ」

 ベンチから立ち上がった状態でこはねを迎えた彰人は、どうして立っているのかと不思議そうに首をかしげた彼女からわずかに視線を逸らす。
 入浴を済ませ、寝る準備に入っているらしい彼女は見慣れない部屋着姿で落ち着かない。降ろしたままの髪、赤い縁の眼鏡、ふわふわとジャンプーかボディソープの香りまでしてくる。

「東雲くんの周りひんやりしてるね」
「……そうか? まあ、外寒かったしな。夜だし余計だろ」

 彰人の近くまで寄ってきたこはねが胸元で手を組んで、なにか言いたげに身じろぐ。
 どうしたんだと様子を見守っていると、彼女はぐっと顔を上げ彰人に向かって両腕を広げた。

「東雲くん、私、今ならあったかいよ」

 意外な言葉に瞬いてこはねを凝視しているうちに、じわじわと彼女の顔が赤く染まっていく。自分で言い出したくせに照れているらしい。

「ど……どう、かな……」
「あっためてくれんの?」

 こくりと頷かれ、誘われるまま腕を伸ばす。しかし、彰人はこはねに触れる直前で動きを止めた。非常に魅力的な誘いではあるが、温まったばかりと思われる彼女の身体を冷やしてしまうのは躊躇われる。
 彰人の迷いを察したのか、こはねはゆっくり瞬くと小さく笑い「えい」とわざとらしく声を出しながら彰人に抱きついた。

「こはね、」
「東雲くん冷たい」
「……お前はあったけえな」

 熱を分け与えるようにぎゅう、と強く抱きしめられ、嬉しさと愛おしさで鼓動が速くなっていく。
 こはねの背に腕を回した彰人は躊躇いながらも少しずつ力を入れ、結局ぴったりと密着するまで彼女を腕の中へ抱き込んだ。



「マフラーありがとう」
「おう。どういたしまして」

 ベンチに並んで腰かけ、改めてと差し出された紙袋を受け取る。
 わざわざ袋に入れてきたのかと笑いながら、彰人は取り出した自分のマフラーを雑に巻いた。
 寒さを感じてから――セカイから出たときに巻き直せばいいだろう。紙袋を畳んでいると、こはねが手のひらを上向けて引き取りたがる様子を見せたのでそのまま渡した。

「杏ちゃんにね、東雲くんから借りたやつだってすぐ気づかれちゃった」
「あいつ、なんか言ってたか?」

 こはねが楽しげに報告してくるので聞き返せば、彼女は「えっと……」と言い淀んでから頬をほんのり赤くした。いったい何を言われたというのか。
 ごくりと唾を飲み込んでわずかに緊張した彰人をよそに、こはねは人差し指を立て、そっと口元に添えながら小さく笑った。

「……内緒」

 ――いま、この状況であまり可愛い態度を見せるのはやめてほしい。
 ぐっと喉を詰まらせ、こはねに気づかれないよう片手を握り込んだ彰人は、わざとらしくため息をついてこはねに寄りかかった。

「めちゃくちゃ気になんだけど。……教えてくんねえの?」

 声を潜め、囁くように聞けばこはねがぎくりと身体を震わせる。もう少し押せば答えて貰えそうではあるが、これ以上攻めると彰人も歯止めが利かなくなりそうだった。

「えっとね……私も、自分のマフラー東雲くんに巻きたくなっちゃった」
「お前のって……あのモコモコしてるやつか?」
「ふふ、うん。お願いしたら使ってくれる?」

 にこにこしながら、珍しくいたずらっぽく聞いてくるこはねに心臓が跳ねる。
 杏とのやり取りがきっかけでこんなことを言いだしたのなら、彰人のマーキング行為は彼女に正しく認識されていたのだろう。
 そして、こはねもそれを彰人にしたいと言っている。

「……たまになら」
「ほ、ほんとう!? いいの? 写真撮ってもいい?」
「それはやめろ」

 ぱちりとゆっくり瞬いて、パッと表情を明るくさせたこはねが身を乗り出してくる。
 どさくさに紛れて写真を残そうとするのにはしっかり釘を刺し、自分から彰人の方へ寄ってきたこはねを抱きしめた。


***


「――あの、東雲くん」
「ん? あ、おい動くな」
「巻いてくれなくても大丈夫なのに」
「嫌ならやめるけど」
「……いやじゃないよ」
「その顔ずりぃ」
「……東雲くんの写真、撮りたいな。だめ?」
「だめだっつったろ」
「一枚だけ、おねがい」
「お前……それわかっててやってるだろ」
「ふふ」
「くそ……こはねも入れよ」

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