Vischio

ベストプレイス

「どうした?」

ひたすら仕事をこなしていると思っていたアスベルが手を止めてこっちを向いた。
色の違う左右の瞳が不思議そうに揺れる。

「…見てちゃいけない?」
「いけなくはないけど……なんか、落ち着かない」

気づかれたのが恥ずかしくて思わず言うと、アスベルは視線をそらして頬をかいた。アスベルが照れてるときによくやる仕草。

「…なにニヤニヤしてるんだよ」
「に…、し、してないわよ!」
「してる」
「してないったら!もう、お茶淹れてくる」

邪魔してごめんなさい。
そう言って退室するつもりだったのに、アスベルは伸びをして席を立ってしまった。もう終わったの?

「ん、ちょっと休憩。シェリア」
「なに?」

壁際のソファに移動したアスベルは私に笑顔を向けながら自分の隣を叩く。
意図はわかるけど、さっきお茶淹れてくるって言わなかったかしら。

──思いながら素直に従う私は結局アスベルに弱いんだと思う。

お邪魔します、と小さく言って座ると不満そうなアスベルと目が合った。

「…………シェリア」
「なによ」
「なにって、遠い。なんでそんなに離れて座るんだよ」
「と、遠くないわよ、ほら!」

アスベルの膝を軽く叩いて、いかに近いかを主張する。
こうしてちょっと手を動かせばアスベルの膝に触れるし、軽く身体を傾ければ寄りかかることだってできる。
近すぎてアスベルの顔が見えない(見られない)のが不満なくらい。なのにアスベルは軽く溜息をついて私の方へ寄ってきた。
これ以上端に行けないから必然的に密着状態だし動けないしで体温が上がる。

「ちょ、っと、アスベル」
「休憩って言ったろ」
「聞いたけど…聞いたけど……!」

肩を貸すなんて了承した覚えはないわよ!
口から飛び出しそうになった文句を飲み込む。
少しだけ、と言い置いて私に寄りかかるアスベルはうたた寝でもするつもりなのかもしれない。
だけど私は緊張して体を固くしちゃってるし、自分より低い位置にある肩に寄りかかるってすごく寝づらいと思うんだけど。

「ふ……シェリアの髪くすぐったいな」
「だ、だ、だったら、」
「うん。いいにおいするし…好きだ」
「~~~~~~ッ!!」

なんっでそういうことをサラッといっちゃうのよ!
アスベルが言うように私だってあなたの髪がくすぐったいし好きだけど、絶対言えない。
──私ばっかり意識して、焦って、ばかみたい。

「…………好きになったほうが負けって、よく聞くけど…限度があるわよね…」

悔しいけど…でも、やっぱり好き。
ずっと、きっと…これからも。

静かになったアスベルの様子を気配だけで伺いながら、聞こえないようにひとりごちた。

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