Vischio

退屈しのぎに

「ぐっちゃん、暇」

休日の昼下がり、外は朝から生憎の雨模様で、オレも瞳も互いに雑誌を読んで暇を潰していたところだった。

「……ふーん」

やっぱチューンナップするには金が要るよな。
手元の雑誌を捲りながら、バイトを増やそうか迷う。手に入れて終わりじゃないってのも飽きが来なくていい。
この雨じゃ今日は手入れに行くのは無理か……いや、夜になれば止むんじゃないか?

「ぐっちゃん、暇!」

ふと窓の外へ視線をやった途端、顔の両脇から腕が伸びてきて、軽く首を絞められた。

「瞳、絞まってるって!」

あまり苦しくはなかったけれど、大げさに言ってみる。
無言で緩んだ腕は丁度オレの胸の辺りで交差して、頭に瞳の頭の重みが乗った。
確かにここはオレの部屋で、瞳の興味を惹くような内容の雑誌は置いてない。瞳が退屈を訴えるのも無理はないと思う。
オレは雑誌を閉じると瞳の腕の辺りをポンと叩いて、どうして欲しいか聞いてみた。

「暇……」

……だからどうして欲しいんだ……つーか、頭が重い。
瞳のバランスを崩すように、片方の腕を強く引く。
小さい悲鳴をしっかりと聞きながら──耳の傍だったから聞かざるを得ない──前に傾いて来た瞳を支えた。
腕の中に落ちてきた瞳は、素早く瞬きを繰り返しつつオレを見る。いったい何が起こったんだ、って顔だ。
思わず笑いを零すと、ようやく状況を把握したらしい瞳が顔を赤くした。

「……いきなりはやめてって言ってるでしょ」
「わりぃ、つい」

不機嫌そうに言いながらオレの胸に体重を預けてきた瞳は、ただ構って欲しかったようだ。
意味もなくオレの手を取って開いてみたり、指を撫でたりしていた。

「くっ……」
「ぐっちゃん?」

堪え切れなかった笑い声に反応して見上げてくる瞳を抱きしめる。
案の定驚いた様子を見せるのが可愛くて、そのまま額にキスをした。

「構って欲しかったんなら言ってくれりゃよかったのに」
「だ、だって……」

羞恥のためか俯いてしまった瞳は、小さく「どう言っていいかわからない」と呟いた。
もう駄目だ。負けだ。
わけもわからずそんなことを思う。大体なんの勝負だ。
若干混乱した思考のまま、気づくと瞳の髪が絨毯の上に広がっていた。

(……ポニーテールだと痛いんだったか?)

ぐい、とリボンを引っ張るものの、結わえられた形は綺麗なまま留まっている。
代わりに瞳が焦ったようにオレのシャツを引いた。

「ぐぐぐぐっちゃん! 何して──んっ、……ッ、な、」
「引っ張るからだろ」
「そういう意味で引っ張ったんじゃないわよ」

いつもいきなりだ、とオレに押し倒された姿勢のまま怒り出した。

「……じゃ、今からすっから」
「え?」
「キス」
「言えばいいってものじゃ……ちょ、ちょっと、待って!」
「…………」

ベチ、と比較的いい音がして瞳の手のひらが間に入った。
正直に言うと結構痛い。
言葉を紡ぐことも妨害されている状態なので瞳を見つめると、真っ赤な顔で睨み付けてきた。

「~~ッ、か、構って欲しかったのはほんとだけど、そういうのじゃないの!」

……あぁ、そういえば最初は瞳が暇だってうるさいからだったか。
すっかり忘れていた、と言ったら怒られる……だろうな。絶対。
しかしこの状況は惜しい気がする。

「ぐっちゃん、ゲームやろ! ね?」

オレの心情を知ってか知らずか、瞳が匍匐前進で──と言っても相当のろい──這い出して行く。
進路を邪魔する形で瞳の顔の前に腕をつくと、上から見下ろす形で目を合わせた。

「負けたら罰ゲームな」

ありがちに“勝ったほうの言うこと聞く”ってやつで。
ハンデもたっぷりやるし、暇つぶしにもなるだろうと言えば、瞳は嬉々として乗ってきた。
過去の戦歴は綺麗さっぱり記憶から削除されているらしい。ほんと可愛いやつ。

さてと、なにを“お願い”にするべきか。

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