Vischio

紅蓮印の水

あっちー中ようやく家に辿り着いて、冷蔵庫を開けてみれば。
明らかに中身の減ったミネラルウォーター。
親はそろって外出中とくれば、犯人は一人しか居ない。

「おい、」
「んー?」

リビングで悠々と寛いでいる女は雑誌を捲りながら返事をした。
手にしたペットボトルで軽く頭をつついてやると、不満そうに見上げてくる。

「なによぐっちゃん」
「お前な、何のために名前書いてあると思ってんだよ。勝手に飲むな」
「いいじゃない、ちょっとくらい」

よくねーんだよ。
前ならそんなに気にならなかったけど、今は──

意識してるのはオレだけ。
わかりきってることだけど、実感するとちょっと凹む。
そんな自分に呆れて、思わず溜息がでた。

「……そんなに大事に飲んでたの? あの、ごめんね?」

口からでた言葉はまったくと言っていい程見当外れだけど。
ちょっと焦った様子を見せる瞳に心臓が跳ねる。
こんなのよく見る顔なのに、相当イカレてんじゃねーのオレ。

「ま、いーや……これはお前にやるよ」
「え? なんで?」

──お前が口付けたからなんて言えるかよ。
瞳の頭をポンと軽く叩きながら「もう飲まねーから」と誤魔化した。
かなり苦しい言い訳だけど、単純な瞳はあっさり騙されて礼を言いながら笑う。

「瞳、他のとこではやるなよな」
「なッ、やらないわよ!」
「どーだか。部活んときとかやってんじゃねーの?」
「やらないったら! ぐっちゃんのだけだもん!」

おい……それは反則だろ。
知らず速くなる心音を強引に無視して、瞳の額をペチっと打った。

「った!」
「オレのでもやるなっつーの」

反撃にでてくる拳をひょいっと避けて、瞳に気付かれない程度の早足でリビングを出た。

「バカみてー……」

“弟”だけの特権に喜んで

“弟”だから意識されてないことに凹んで

自分を振り回す女をそれでも憎めなくて。自室の扉の前で大きく息を吐きだした。




忍耐力アップアイテム。実際のところ瞳ちゃん飲んだのか?

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