Vischio

Chrome Hearts

聖夜の奇跡があるのなら ひとつだけ

ひとつだけでいいから

オレの願いを叶えてくれよ──

***

「…………はぁ」
「なんだよその重い溜息ー! せっかく誘ってあげたのにさぁ」
「頼んでねー……」
「そんな不機嫌そうにしてても逃がさないよ? 君は俺のための餌なんだから」
「……チッ」

人がごった返す商店街。
雑音の波の中、絶え間なくこの時期特有の音楽が聞こえる。

なんでオレはこんなところにいるんだ?

学校を出てから繰り返している自問。
傍らには級友がいて、ずっと何かをしゃべっていた。
オレを逃がさないよう目を光らせながら。

遡ること一時間前、瞳が珍しく教室に来た。
瞳にはすぐ気づいたけれど、入り口でそっと中を窺ってオレを探す様子が嬉しくて、しばらく観察していた。

──今思えばそれがまずかったんだけど。

オレが行動を起こす前に、きょろきょろする瞳に気づいた級友が声をかけた。

「ウチのクラスに用事?」
「あ、あの……ぐっちゃ……ぐ、れんくん、いますか?」

たったそれだけなのに、顔を真っ赤にして俯く瞳。
なんだよ。いつもの剣幕はどうしたんだよ。
“紅蓮”ってちゃんと言えてねーじゃねーか。
しかもそんな顔──他のヤツの前ですんなよ。

オレが席を立つと、ほぼ同時に瞳の対応をしていたヤツがこっちを見た。
瞳が見えるように身体を動かして、ニヤリと面白い物でも見たような顔で笑う。

「あっれー? 紅蓮くん、顔が赤いみたいですが」
「ッ、瞳、行くぞ!」
「え? ちょっと、ぐっちゃん!?」

戸惑う瞳の腕を強引に引いて教室から離れる。

くそ……余計なこと言いやがって……
赤いわけねーだろ。
気のせいだ。そうでなきゃ……瞳のが移ったんだ。

「ぐっちゃん、痛い!」
「あ、あぁ、わりぃ……」

瞳に言われてようやく足を止める。
気がつけば階段まで移動していて、少し悪いことをした。

「どうした?」
「もう……あのね、今日私用事あるから──」

── 一緒には帰れない。
たったそれだけなのに、かなり落胆している自分に驚く。

会いたい時にいつでも会えた以前とは違うから。
だから少しでもって思うんだ。

「……そっか……気をつけて帰れよ」
「うん、また明日ね」

瞳は、そういうのないのか?
少しは寂しいと思ってくれてたりするんだろうか。

瞳はそのまま階段を上がり、オレは教室へ戻る。
当たり前のようにオレの席を陣取っているのはさっきオレをからかってきた男。

「おい、陸……そこはお前の席か?」
「紅蓮クンの席だね」
「わかってんならどけ。オレは帰るんだ」

不機嫌を隠さず言えば、男──陸は目を少し丸くして、首を傾げた。

どけって言ってんのに聞きやしねぇ。

「さっきのカノジョは? 一緒じゃないの?」
「……彼女じゃねーし」
「うっそ! それ本気で言ってんの!? あの雰囲気で?」

うるせーな。
オレだってそう思ってるっつーの。
だけど仕方ねーだろーが。瞳の気持ちがちゃんと落ち着くまで待つって決めてんだ……

「ふーん……カノジョじゃないんだ? じゃ、俺口説いてもいい?」
「……は?」
「あの子めっちゃストライク! 控え目そうだし可愛いし、何気にナイスプロポーション」

この野郎……あの短い間にナニ見てんだよ。
っつか、誰がそんなの許すかっての!

「なぁ、いい?」
「駄目に決まってんだろ」
「付き合ってないくせに束縛するんだ? 嫌われるよ、それ」
「うるせーな! とにかく瞳は駄目だ!」
「……くくッ……全然余裕ないんだね」

その笑いと表情で、またからかわれたのだとわかる。
自分にも相手にも呆れて、盛大な溜息を吐いた。
そんなオレを見て、陸はニヤリと口角を上げて、右の人差し指を立てた。

「あの子を諦めてもいいけど、代わりにこの後俺に付き合ってもらうからね。どうせ暇っしょ?」
「なッ……」

まさか罠か!?

いつの間にか陸はオレの鞄を取り、自分の後ろに隠した。
その片手間で携帯を出して素早くどこかに電話をかける。

……くそ、鮮やかすぎるぞコイツ。

「あ、美羽ちゃん? うん、俺。紅蓮の了承取れたよ。……へへ、褒めて。うんうん、今から行く」

誰だよ“ミウ”って!
睨むオレには一切構わず、陸は音を立てて携帯を閉じると「さ、行こうか」と言いながら笑った。

「……どこ行こうってんだ?」
「合コン。セッティングしてって頼まれててさぁ、どーしても紅蓮がいいって言うから参ったよ……」「はあ!? ふざけんな! なんでオレ──」
「あーやだやだ、無自覚モテ男は嫌だね。どうせカノジョしか目に入ってないんだろうけどさ」

紛れもない真実なので反論もできず、流されるまま陸に連行されることになった。

◆◆◆

「はあ…………」

何度目かわからない溜息。
目的の場所には着いていて、面子も揃っているらしいけど、どうでもいい。

──さっさと帰らせてくれ。

さっきからそればかりを考える。
目の前に置かれたケーキと珈琲──そういや瞳はここのケーキが好きだったな。
ぼんやり外を眺めれば、暗くなりだした街にライトが灯るところだった。

明滅する「Merry Xmas」の文字。
それから軒先に置かれた小さなクリスマスツリー。

クリスマスか……駄目元で誘ってみっかな……
今年からはあの家で祝うこともないんだと思うと少し寂しい。
毎年ケーキを受け取りに行くのはオレの役目で、瞳は家でそれを今か今かと待っている。

『おかえり!』

そう笑って言いながら、真っ先に手を出すんだ。

「──紅蓮!」

「…………あ?」

……やべ。オレ、今トリップしそうになってたか?

ぼやけた意識をはっきりさせるために、珈琲に口を付ける。
何気なくやった視線の先で、シルバーリングが光った。
シンプルだけど目を惹くそれは瞳に似合いそうだ。

「……なあ、ちょっとそれ……」

見せてくれ、と言おうとしたのに、隣りから「やっと戻ってきたよ」と陸が呆れたように言うもんだから、ついそちらに向き直った。

「さっきから呼んでんのに俺より目の前の女の子? 酷いね、薄情だね」
「……もう帰っていいか?」
「駄目。美羽ちゃんが紅蓮と話したいって言ってんだから。……紅蓮も気になってたんじゃないの?」

後半はオレにだけ聞こえるように声を潜めて、示したのは目の前の──シルバーリングの女だ。

「オレが興味あんのはそのリング。瞳以外の女には興味ねーよ」

思いのほか声が大きかったらしい。
静まり返った場で、陸の乾いた笑い声が浮いていた。

「え、えーと……あ! 紅蓮、携帯鳴ってる!」

ナイスタイミングと言わんばかりに出る事を勧められて、ディスプレイを見れば願ってもない“瞳”の文字。

用事は終わったのか?
オレは気を遣うこともなく、通話ボタンを押した。
「……どうした?」
『ぐっちゃん、今暇?』
「ん、ああ。なんで」
『うん、ちょっと……会いたいの』

……聞き間違いじゃねーよな? “また明日”じゃなかったのか?

「今ストロベリーカフェにいる」
『……いいの?』

駄目なんて言うわけねーだろ。

「オレが行くか?」
『え、ううん、丁度近くにいるから平気よ。ありがと』

瞳が来るなら席を移動するか。
携帯をしまいながら、断りの文句を言おうと視線を戻すと、何故か見られている。

「? なんだよ」

肩に手を置いて、緩く首を振る陸は「何も言うな」と小さく言ってあらぬ方向を見ている。
ますます変だ。

「……なんつーか……紅蓮がメロメロなのはよ~くわかった」
「は?」
「君がそんな甘い声を出せるなんて知らなかった。顔も緩んでるよ」
「なっ、んなわけねーだろ!?」
「うわ、自覚なしか。たち悪いなぁ」

そう言って大袈裟に溜め息をついて、呆れて見せる。

……くそっ、なんなんだ。
今までそんなこと言われたことねーぞ? 端から見てもバレバレってどうなんだよ……

「オレ移動するわ」
「……カノジョ来るんだ?」
「わかってんなら話かけてくんなよ?」

呆然とオレを見る女の中で、陸は一人諦め顔で手をヒラヒラさせた。
あ、あのリングのブランド聞くの忘れた。

──ま、いいか。とりあえず今年のプレゼントは決まった。

あとは当日に会えるかどうか、それだけだ。
どうせならその日に会って渡したい。

「いらっしゃいませ~」

間伸びした声につられて入口を見ると、瞳の姿。
息があがってる気がするけど、なんでだ?

「瞳!」

店員の案内を断って中に入って来る瞳に呼びかけると、ふわりと安心したように笑った。

「……お前走って来たのか?」
「え? う、うん」
「どっちだよ」

笑い混じりに聞くと「寒かったから」との答え。

走ったってことだな?
まあ聞かなくても、その様子見りゃわかるけど。

テーブルに置かれた水を差し出すと瞳はそれを一口飲んで、ようやく席に着いた。

「あの、ごめん、ね」
「何がだ?」
「ううん、いいの! 言いたかっただけ」

……よくわかんねーけど、瞳が満足してんならいいや。

「何食う?」
「ん~、どうしよう……これにしようかな……やっぱりこっち?」

迷って唸る瞳がおもしろい。
そこまで悩まなくてもいいと思うけど、オレにはないこだわりがあるんだろう。

「どれ?」
「これとこれ、どっちがいいと思う?」
「両方頼めば?」
「……二つも食べたら太るもの」

ギュッと眉根を寄せる瞳を見ながら、教室で陸が言っていたことを思い出した。

『何気にナイスプロポーション』

……確かにスタイルいいよな。
それなりに気遣ってんのか。

「なあに? なんか付いてる?」

瞳は見当はずれな事を言いながら首を傾げ、不思議そうにオレを見た。

「なんでもねーよ」

タイミングよく来た店員に瞳が迷っていた二種類のケーキを告げて、ついでに珈琲のおかわりと紅茶を付け足した。

「ぐ、ぐっちゃん! 二つも食べられないって言ったでしょ?」
「半分」
「え?」
「定番だろ。半分オレに寄越せ」
「ああ、半分こね。うん!」

焦ってると思ったら途端に嬉しそうに笑う。
──目が離せねーよ、ホント。

「瞳、ついてる。ったく、ガキかよ──ん、美味いなこれ」
「な、ななな何するのよ!?」
「は? 何って……」

慌てる瞳は顔を真っ赤にして、何か言いたげに口をパクパクさせている。まるで金魚のように。

こんなの家にいたときはよくやってたのに、なに今更照れてんだよ。
つられるだろーが……

「あー、お前さ、用事は? 終わったのか?」

ゴフッ

「うわっ、ちょ、汚ねーなぁ……何やってんだよ……」

突然紅茶を吹き出して咳き込む瞳に布巾を渡し、その手からカップを取り上げた。

「う~……ぐっちゃんが変なこと聞くから……こぼしちゃったじゃない」
「変なことしてたのかよ」
「ち、違うわよ! ……でもぐっちゃんには内緒」

瞳は意味深に言うと、誤魔化すようにケーキを口に入れた。

結局瞳の用事については聞き出せず、ストロベリーカフェからでた。
もうすぐ速水の家に着くのかと思うと自然と歩調が緩くなる。
瞳はそんなオレに気付いてるはずなのに、何も言わない。

なあ、何考えてる?
お前もオレと同じでゆっくり歩きたいって思ってくれてるのか?
もし……そうだったら、いいな。

「ねぇ、ぐっちゃん……?」
「ん?」
「あの……今度の休みって空いてる?」

今度の休みというと土曜か日曜ということだろうか。
伺うように見れば、瞳は顔を俯けていてこっちを見ようとしない。

「……それって、どっち?」
「日曜日なんだけど……あの、ね? 駅前のイルミネーションが綺麗って茜に聞いたから、だから──い、一緒に……どうかなって」

……なんだよ……オレの悩み一気に解決じゃねーか。

日曜日は丁度クリスマスイブ、まさに願ったり叶ったりというやつだ。
なにより瞳のほうから誘ってくれるとは思わなかった。
瞳はマフラーで顔を隠そうとしているけれど、頬はほんのり桃色。

そんな顔で言うなんて、反則だと思う。

「なぁ瞳」
「なあに?」
「抱き締めていいか?」
「え!? ちょ、な……ここで?」
「そ。ここで」

瞳の返事を聞く前に、目を丸くしてオレを見上げてきた瞳を引き寄せた。
緊張して固くなっている瞳を抱き締めて、髪に顔を埋める。

「ぐ、ぐっちゃん」
「行こうぜ……日曜。どこでも付き合ってやるよ」
「……うん」

◆◆◆

──オレと瞳の今の関係を言葉で表すとしたらどうなるんだろう。

待ち合わせ場所のロータリー前、自分が吐き出す白い息をぼんやり眺めながら、そんな事を思う。
瞳に“クリスマスの日に家で食事はどうか”と誘われた。

誘ってくれたのは嬉しいけど、オレはお前にとってどういう立場なんだ?
向こうにとってオレは初対面で、雪草のようにクラスメイトってわけでも、部活の後輩ってわけでもない。

──だけど“恋人”でもない。

とても不安定で曖昧な関係。
“家族以上恋人未満”……そんな立場でオレはどうやって挨拶すりゃいいんだよ。

「あのぉ、お一人ですかぁ?」
「……待ち合わせ中」

溜息混じりにそう答えたのは何度目だろう。
考え事をする暇もない。
……瞳が時間通りに来さえすれば、考え事なんてすることもないんだけれど。

案の定遅刻してる瞳を待っている間に、遠巻きに人垣。
終始見られているのが不快だ。オレはパンダかっての。
段々イライラしてきたとき、ようやく瞳が姿を見せた。

「ご、ごめ……待った?」
「おせーよ。ったく、母さんにでも捕まってたのか?」
「うん、服にあれこれ文句言われて……って、なんでわかるの?」
「ん? 適当……なぁ、それオレのため?」

いつもより幾分可愛らしい格好の瞳を指して言えば、しどろもどろに文句を添えながらも──「お母さんがどうしても」とか「前もって茜が」等──否定はしなかった。

「いーんじゃねーの? 似合うよ、可愛い」
「か……ッ、可愛いって……ぐっちゃんらしくないわよ」
「……じゃあオレらしいってどんなだよ」
「“その服”って続くとか“馬子にも衣装”とか」

……まぁ、否定はできねーな。

「たまにはいいだろ? それよりどっか入ろーぜ。さみーよ……」
「あ、うん、ごめん」
「いつものことだろ、気にすんなって」
「そ、そんなことないわよ!」

瞳の背中を軽く叩いて、移動を促す。
一瞬触れた背中は冷たくて、瞳も冷えてるんだとわかった。

「……手」
「え?」
「手、貸せよ」

きょとんとした顔の瞳の手を強引に取って、自分のコートのポケットに入れた。
びくっと震える瞳に苦笑する。
自分でもらしくないってわかってる。

「嫌ならやめるけど?」
「……いやじゃないわよ」

小さい声だけど確実にそう答えた瞳は、オレの手を握り返して微かに笑った。

◆◆◆

ライトアップまでの時間はまるで恋人同士のように、ショッピングして食事して……
これが一晩だけの夢でなければいいと、何度思っただろう。

「ぐっちゃん、そろそろ行こ?」
「そーだな……」

瞳に引っ張られるまま行ったイルミネーションスポットは圧巻だった。
嬉しそうにする瞳もしきりに「すごい」と言っていて、今にも手を叩きそうだ。
しばらく眺めていたら、瞳はふと思い出したようにオレを呼んだ。

「公園行かない?」
「は? 公園て……家の……お前ん家の近く?」

オレの言葉に一瞬顔を曇らせながら、瞳が頷く。

「一応ライトアップされてるの。……ぐっちゃんなら知ってるでしょ?」
「あぁ、まあな」

昔はよく両親と総出で見に行ったものだ。
マイナーだから人もいないし、雰囲気だけ楽しむのなら十分。
断る理由もないので、そのままその公園に移動することにした。

「こっちも結構綺麗よね?」

誰もいないからと瞳がくるくる回る。
巻いてるマフラーが一緒に揺れて、とても楽しそうに見えた。
寒くないのかと聞きそうになってやめる。

──まだ瞳を帰したくないオレの我侭。

「瞳ー、なんか飲むかー?」

代わりにそう聞くと、瞳はぴたりと動きを止めて「あったかいのがいい」と返してきた。
……そんなのわかってるっつーの。
この寒いのに冷たいの欲しがるやつなんて稀だろ。
瞳の好みのものを適当に買えばいいかと判断して、公園の入り口にある自動販売機に向かった。

買ったのはオレ用の珈琲と瞳にココア。
それを片方のポケットに手と一緒に突っ込んだ。
瞳はまだ回ってるのかと思っていたけれど、大人しくライトアップされた木を見上げていた。

その姿がやけに綺麗で──
今にも消えてしまいそうで、足を止める。

──消えるわけねーのに。

確かめるように、オレは瞳を抱き締めた。

「……ぐっちゃん? どうしたの?」
「なぁ瞳」
「ん?」

苦しいんだ。

待つって決めたのに。
オレは……思ってた以上に堪え性がないみたいだ。

だから、利用する。

──そんなとこに立ってるお前が悪い。

それを言い訳に残して。

嫌ならはっきり拒絶しろよ?

オレは瞳を上向かせて唇を塞いだ。
冷えた肌と同じように冷たくて、柔らかい。

「──んっ、」

びくりと震えた瞳だけど、それは驚きだったのか、その後強い抵抗がない。
受け入れられていると思っていいのだろうか。

オレは瞳の後頭部に右手を回して固定すると、左手で腰を抱き寄せた。
浮いていた瞳の手はオレの背中に回されて、コートを掴む。

そんなことされたら止められない。

「瞳……」
「ん、ぐっちゃ──ぁ、」

僅かに開いた唇から舌を差し入れる。
歯列を撫でる度、舌を絡ませる度に小さく震える瞳が可愛くて、段々熱くなる唇に夢中になった。

「……ッは、」

くたりと寄りかかってくる瞳をそのまま抱き締める。
瞳の吐く息も、オレの吐く息もやけに白くてキスがどれだけ熱かったのかが目に見えるようだ。

「大丈夫か?」
「ふ……、ん、平気……」

「──瞳、なんで抵抗しなかった?」

瞳は息を整えてからオレの胸を少し押して距離をとると、真っ直ぐ見上げてきた。
その視線は強くて真剣で、オレの方が息を呑む。

「…………ぐっちゃんが好きだから」

言われた言葉はすぐに浸透してこなくて、瞳と見詰め合ったまま動けなかった。

「……マジ、かよ……」
「ほ、ほんとうよ。今更かもしれないけど今日言おうって……ずっと……その、きゃ!」
「すっげ……嬉しい」

華奢な身体を腕の中に納めて言うと、瞳は恥ずかしそうに身をよじった。

キスのときはそんなに抵抗しなかったくせに。
抱き締めるのはダメなのか?

「ぐっちゃんにプレゼントがあるの」

顔を赤くしながらそう言うと、瞳は長方形の箱を出した。

「クリスマスだから…一応、これでも悩んだのよ?」

もう既にもらったようなもんなのに。
まるで奇跡のような──瞳の気持ちを……

おずおずと差し出されたそれはクリスマスらしい赤と緑のラッピング。
まあ、オレのも似たようなもんだけど。
これを買う間はオレのことを考えてたんだと思うと嬉しい。

「さんきゅ……じゃ、ほら。お返し」
「え!? わ、私に?」
「あのな、他に誰がいんだよ」

嬉しそうに礼を言う瞳が可愛くて、思わず頬に口付ける。
すると赤かった顔をさらに赤くして怒った。
今更だろ?

瞳がくれたのはシルバークロスのペンダントだった。
なんでも“前の”オレがつけてるのを覚えてて決めたらしい。
オレから瞳へのプレゼントもシルバーで、微妙に被ってるのがおもしろい。

「ねぇ、ぐっちゃん」
「んー?」
「……なんでいきなりキ、キスしたの?」
「そりゃお前があそこに立ってたから」
「どこ?」
「ヤドリギの下」

不思議そうな顔のままの瞳。
オレは瞳が知らないだろうって、なんとなくわかってた。
だからちょっとした賭けだったんだ。

「クリスマスにヤドリギの下にいる女にはキスしていいんだぜ?」
「なっ! ぐっちゃん!」
「バーカ、お前じゃなきゃしねーっての」

そう言いながら、むくれる瞳にキスをした。

「~~~~ッ!!」
「帰ろーぜ、送ってく」
「もう!」

自然に手を繋げるのが嬉しい。
クリスマスは無理だったけど、あの家に年始の挨拶には行けそうなのも。

──堂々と付き合ってるって言えるんだから。

***

「ぐっちゃん……! や、だ……こんな、」
「なんで? いいだろ……?」
「よくないわよ! なんで──きゃ、ん、」
「ほら見せろって」

「あの……もしもし、君達」

「なんだよ陸。今取り込んでんだから邪魔すんな」
「もう、ちゃんとつけてるって言ってるのに!」
「だからそれを見せろって言ってんだろ」
「戻すとき冷たいから嫌なの」
「ちょっとは冷たい方がいいんじゃねーの?」
「なんで……って、ちょ、変なとこ触んないでよ!」
「変なとこって──」

「別のとこでやってくださーーい!! ここ喫茶店だから!! ね!? 頼むから!!」

「……そもそもなんでお前がここにいんだよ」
「偶然通りかかったからだって言ったっしょ?」
「邪魔」
「……紅蓮クン性格変わってません?」
「気のせいだろ」
「……バカップルって噂広めてやる……」
「好きにしろ」
「えぇ!? ぐっちゃん、無責任なこと言わないでよ」
「いーだろ別に。瞳はオレの」
「きゃ、もう!!」

「……バカップルめ……」




シルバーリングつけてるのを見せろって話。
瞳ちゃんは真面目っ子(たぶん)なので指じゃなくてネックレスにして下げてるという設定です。


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