Vischio

そんなことならいくらでも!

「アオトさんにお願いしていいか迷ったんですけど…」

サキがこうして遠慮がちに言い出すのはそう珍しいことでもない。
あっという間に片付く些細なことから、確かに大変だなと思うことまで幅広いがそれでもアオトは頼まれた内容を断ったことがなかった。

あれこれ器用にこなすアオトに最近は『お願いしたいです』と口にしていただけに、今回の様子は久々に見た気がした。

「どうした?」
「保育園の遊具が壊れてしまったんです。でもアオトさんはお家を作るのがお仕事だから…」
「修理してって頼むの気が引けたって?」
「はい…」
「バカだな。なに今更遠慮してんだよ。見てみないことにはなんとも言えねぇけど、たぶんどうにかなると思うぜ」

これは自負というでもなく、旅で培った技術に基づくものだった。
無駄に多ジャンルの知識を得たアオトは、本職はもちろんのこと彫金、裁縫、鍛冶に料理と幅広い対応力を持っている。
今のアオトが所持する技を駆使すれば、使い勝手のいい家の一つくらいは建てられるだろう。

「やっぱりアオトさんはかっこいいです!」
「まあな」

嬉しそうに笑うサキの賞賛を受け、アオトは上機嫌でサキの頭に手を置いた。
軽く撫でるとサキは気持ち良さそうに目を閉じ、ふふ、と少し自嘲気味に笑う。

「…サキはアオトさんに頼ってばっかりですね」
「──俺は全然足りねぇけど」
「?」
「もっともっと頼ってくれていいんだぜ?サキの“お願い”ならなんでも聞いてやる」
「なんでも、ですか?」
「おう!」

胸を張って答えるアオトに、サキはほんのり頬を紅潮させ「……本当になんでもいいですか?」と聞いてきた。
これもまた珍しいと驚いたものの、アオトはサキからの甘えを感じて笑顔になった。

「男に二言はねぇって」
「じゃ、じゃあ…あの、ちょっとだけ…ぎゅってしてくださいっ!」

自身の言葉と同じように固く目を瞑ったサキの頬はほんのりから真っ赤に変化していた。
予想外の内容に固まったアオトもサキにつられて赤くなる。
頭を撫でる動きが止まったのを答えと取ったのか、サキがそろりと目を開けた。

「だ、だめですか?だめなら──きゃあっ!?」
「っかやろ…」
「ア、アオトさん、少し苦しいです…」
「無理」
「えぇ!?」

サキの言葉を途中で遮り、望み以上にぎゅうぎゅうと抱き締める。
力を緩める気がないアオトの様子に訴えるのを諦めたのか、パタパタ動いていたサキの両手はアオトの背中に添えられた。

無言のアオトに対して「あったかいです」だの「アオトさんの匂いです」だの嬉しそうに言うものだから、なかなか放してやれない。

──反則だろそれ。

赤くなっている顔を見られたくなかったアオトは、サキが本格的に酸欠になりかけるまで加減なく抱き締め続け、顕現したサキアに制裁を加えられた。

Powered by てがろぐ Ver 4.2.0. login