Vischio

アオト先生といっしょ①

サキに壊れた遊具の修理を頼まれたアオトは、道具一式を持って保育園の庭に出た。
自由に駆け回っていた園児の一人が気づいて近寄ってくる。

「見ててもいいけど怪我しねぇように少し離れてろよ」

先に牽制をかけるものの、その園児は聞いていないのか遠慮なく近づき、アオトの隣にあぐらをかいて座った。

「こら」
「なぁなぁアオト、サキ先生とはどこまでいってんだよ」

いきなり何を言い出すんだこいつは。
呆れ混じりに視線をやるものの、その表情は真剣だ。
──めんどくせぇ。
即座に判断したアオトは無視を決め込むことにした。

「なあ聞こえてんだろ?…なあって!」

めげない園児は背中に張り付きアオトを呼ぶ。
さすがに作業を中断させたアオトは振り返り彼を背中から剥がした。

「危ねぇって言ってんだろ!」
「サキ先生に"アオトにいじめられた"って言いつけるぞ!」
(んのヤロウ……)

ピキ、とこめかみに青筋が浮いたのがわかったが、相手は幼児だ。サキの生徒だ。
今はアオトの生徒でもあるが、まだ実感が薄い彼にとってはそこまで考えが及ばない。

「あのな、俺は今仕事中なんだよ、見てわかんだろ?つーか俺じゃなくてサキせんせーに聞いてみりゃいいじゃん」

言うと、もう尋ねた後らしい。
彼はムッとした表情を見せ、そのままサキの台詞を再現した。

「……『サキ先生はこの塔の一番上から下まで、アオトさんたちと旅したんですよ!』って嬉しそうに言われた」
「そりゃまたベタだな…」

サキらしいとしか言えない内容に苦笑する。
アオトの台詞に「おれもそう思う」と返す園児はあまり子どもらしくないなと思った。

「で、どうなんだ?」
「へっ、もったいなくて教えられっかよ」
「なんだよそれ!」
「どうしても聞きたかったら追いついてみな!」
「アオト!逃げるなんてずるいぞっ!!」

修理道具を片付けて駆け出したアオトの背中に園児の叫び声がぶつかる。
それを皮切りに園児全員vsアオトの鬼ごっこが始まった。

今日の作業は諦めることにして、アオトは園児たちと全力で園内を駆け回った。

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