Vischio

アオト先生といっしょ②

「アオトせんせー!」
「うぉ!?」

足元にきた軽い衝撃に、アオトはびくりとして視線を下げた。
膝の辺りに華奢な腕が巻きついており、にこにこした園児がアオトを見上げている。

「いきなりは危ねぇからやめろって言ったろ?」
「うん、本読んでー」

聞いてねぇ。
思わずガクリとうなだれる。どうすればサキのように上手く言い聞かせられるのか。
唸るアオトに構わず懸命に本を差し出してくる少女に負け、アオトは「よし」と本を受け取った。
手を繋ぎたがるのを微笑ましく思いながら左手を出す。彼女は小さな手のひらで、アオトの指を3本ほど握った。

「サキじゃなくていいのか?」
「サキ先生はすこし待ってっていってた」

アオトでは手が回らない事務系の仕事でもしているのだろうか。
最近ちょくちょく顔を出し始めたミュートが尋ねてきているのかもしれない。
園児の言葉にそうか、と相槌を返しアオトは日当たりの良い場所を選んで腰を下ろした。
あぐらをかいた足の上に、なんの躊躇いもなく園児が座る。

(…俺も大分馴染んできてんな)

慣れないうちは身動きが取れないことに戸惑ったり、怪我をさせそうで慌てたが最近はなれたものだ。彼女たち園児にとってはこの場所が聞きやすく、また本を見やすい位置なのだろう。
さて読むかと渡された本の表紙に目をやり、アオトはタイトルを二度見した。

──チェリー&ヴィオール2度目の死闘!

「……なんだこりゃ」

ポップで可愛らしいフォントとイラストのわりに内容が壮絶だ。
中をパラパラめくってみると、文字ばかりで絵がほとんどない。こんな本がこの園にあっただろうか。
ひとり疑問符を浮かべるアオトに、園児はこともなげに「もらった」と言った。

「誰に?」
「さーちゃん」

誰だ。
辛抱強く話を聞いてみると、"アオトせんせーも知ってる温泉の近くにあるおもちゃ屋さんの子"だと言う。
おそらく『にゃにゃ屋』のさーしゃだろう。

「さーちゃんの住んでたとこで大人気なんだって!」

アオトに読ませる前に、既に何度かサキに読んでもらっているらしい。
紙があるとこから!と主張するとおり、途中にしおりが挟まっていた。
身体全体を使って懸命に説明してくれたあらすじからすると、変身して戦う少女が二人とそれに敵対する勢力の話のようだ。

(『詩天使♪ミラクルさっきゅん』みたいなもんか?)

サキのコスモスフィアを思い出し、笑いそうになっていたアオトをさらに衝撃が襲った。

「それでねー、こんどサキ先生がいっしょにやってくれるんだ」
「ぶっ…サキが?」
「そうだよ、やくそくしたもん!」
「……ちなみにサキ先生はどっちだ?」
「たかびしゃせんしヴィオール!」

堪えきれず、アオトは園児を抱えたまま噴きだした。
楽しそうに笑うアオトにつられたのか、彼女もにこにこ笑う。

「えへへ、そのときはアオトせんせーも仲間にいれてあげるね!」
「すっげぇ楽しみ!」

心からそう言って、アオトはせがまれるまま『チェリー&ヴィオール』を読みはじめた。



著者はジャクリ、スピカが勝手に出版…という妄想

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