カラクリピエロ

素直になれない(後日譚)


※竹谷視点





(――…止め時がわかんねぇ)

名前の手を握ったまま、飽きることなく口付けを繰り返しながら名前の様子を見る。
赤い顔に荒い息、合間に聞こえる喘ぎ声。

「は…、んっ」

ぎゅっと閉じられる瞳に合わせて手のひらまで一緒に握り締めるから、名前の爪が俺の手の甲に食い込む。

わざとなのかそのまま爪を立てるから、宥めるつもりで舌を絡ませた。
ビクリと跳ねる名前の力は増し、行為は逆効果だったのがわかったけど、もうそんなのどうでもいい。

くぐもった声と微かに聞こえる水音がたまらなくて、空いていた手で名前の腰を抱き寄せた。

「も、しつ…こい…!」

名前は俺の口を両手で塞ぎながら怒るけど、涙目だし濡れた唇は真っ赤になってるしでそう簡単に落ち着けそうもない。

「わ、私の話はもう終わりだから、今日は帰っ、ひぁっ」

息を整えながら視線を下げて、普段どおりに戻ろうとする名前の背に指を滑らせる。
反応して仰け反った拍子に外れた両手が背中に回る。名前はすぐに頬を染めて俺を睨み上げるけど、余計にそそられただけだ。

「それ…やめてって、言ったでしょ!?」
「感じるからか?」
「なななに言ってるのよ馬鹿!!」

ぐいぐい俺を押して逃げ出そうとする名前からわざと手を離す。
きゃ、と短い悲鳴を上げて仰向けに転がった名前に覆いかぶさったが、名前は青ざめて固まっていた。

「…………名前
「は、ちざ…も…」
「…そんな顔すんなよ、悪かった」

名前の上からどきながら、彼女の腕を掴んで引き起こす。
だからって離す気はなかったから、そのまま片腕で抱き締めた。

「ちょ、ちょっと…」
「これくらいならいいだろ?」

返事の代わりに言葉を詰まらせる名前に笑うと、不満そうに腕を叩かれてしまった。

「――けどなぁ…どうすりゃいいんだ、慣れるとかあんのか?」
「知らないわよ」

ムスッとしながらの素っ気ない返答に悪戯心が湧く。
わざと音を立てて首筋に口付けると肩が大きく跳ねた。

「八左ヱ門!」
「俺は名前を抱きてぇんだよ」
「っ、」
「けど、お前がそうなったのって俺のせいだろ?これでも…待つ気はあるんだ、一応な」

首をひねって俺を見る名前が複雑そうな顔をする。
一応、と呟くのが聞こえて引っかかってたのはそこかと納得した。

「色々大変なんだぜ俺も」
「…………ちゃんと、待ってよね」

――驚いた。

名前は相変わらず複雑そうな顔をしてるけど、今日…ついさっきの告白(直接言われたわけじゃねぇけど)みたいに覚悟してくれるのか。

俺が凝視しすぎたせいか、名前はハッと目を見開いて顔を赤くしながら俺を睨む。自分の発言をようやく理解したらしい。

こういう…たまに素を漏らすとこも可愛いよな、と思いながら見ていたらニヤニヤするなと怒られた。

「今日は帰って」
「お前もうちょっとこう…優しく送り出してくれよ」

足を怪我した名前の寝る準備のために、さっきのくのたまが部屋に来るらしい。
そういえば何を言われてたんだと聞いた俺に、名前は顔を赤くして「知らない」と返してきた。答えになってねぇ。

「あ、これ…返そうと思ってたの忘れてた」
「手ぬぐい?」
「あなたが私の首を絞めたやつ」
「あぁ…って、あれは名前が悪いんだろ?」

そんなのもあったなと思いながら手渡されるそれを確認する。
ずっと懐に入れて持ち歩いていたのか、ほんのり温かい。
綺麗に洗濯済みらしい手ぬぐいを握っていると物言いたげに見上げられ、衝動に任せて口づけた。

「なっ、なにするのよ!?」
「したくなったんだよ」
「~~~~ッ、私のも、返して!」

当然のように手のひらを突き出されるが、あいにく俺は持ち歩いてない。
部屋の物入れの中に――大事に仕舞ってある。

「つーか、あれ俺にくれたんじゃねぇの?」
「どうしてよ…手ぬぐいが無いと困るんじゃないかと思ったから預けただけ」
「んじゃこれやるから交換」
「……別にいいけど……変な八左ヱ門」

軽く息をついて再び手ぬぐいを仕舞う名前をじっと見つめる。
何?と首を傾げられ、わざとらしく咳払いをした。

「……“また明日”くらい言ってくれてもいいだろ」
「また明日ね、八左ヱ門」

俺の言葉通りの台詞に可愛らしく笑顔をつくる名前

――…微妙に物足りない。

と思ってしまうのは、動揺して取り乱しながら俺を睨んでくる名前の方が素っぽくて好きだからなのかもしれない。

「――ま、いいか。怪我、悪化させんなよ」

頷いたのを確認して退室するための道具を用意していたら、唐突に装束が引かれた。直後、頬に柔らかい感触があたり、ちゅ、と小さな音。

「…き、気をつけて、帰りなさいよね!」

さあ帰れ、と俺を追い払う動作をする名前は俺と目を合わせようとしない。
勝手にニヤつく口元を押さえ、やや強引に名前の腕を引く。お返しとばかりに唇を塞いで今度こそ部屋を後にした。

「八左ヱ門!」

結局、俺を送り出す名前の台詞は照れの滲む強い呼びかけだった。






「…八左ヱ門、あなたは向こうで食べなさいよ」
「なんでだよ。いいだろここで」
「今日は呼んでないでしょう?」
「まあな。嫌いなもんあるのに何で呼ばないんだ?」
「べ、別に」
「なんだ、今さら照れてんのかよ」
「……どうして八左ヱ門は普通なのよ」
「俺は態度変えてるつもりねぇし…なんなら食わせてやろっか?」
「変えてるじゃない!!」

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