カラクリピエロ

富松と手裏剣特訓


※富松視点




貸し出していた手裏剣は川西から無事返ってきたし(外に打っちまったけど)、藤内との喧嘩の名残を手当てしてもらおうと医務室に腰を落ち着ける。
川西は「すみませんでした」と頭を下げながら、慌てて救急箱を取り出した。

「左近~」
「あれ、苗字先輩。今日は当番じゃないですよね?」
「そんなことはどうでもいいの!手裏剣の成績クラストップだって?おめでとう!」

軽い足取りで入ってきたくのたまは、おれと藤内を軽くスルーして川西にぶつかる勢いで抱きついた。

「いっ――痛い痛い痛い!苗字先輩、ちょ、ギブですギブ!!」
「さっき野村先生に手裏剣投げを教えてもらってたんだけど“左近にコツでも教えてもらったらどうだ?”って呆れられちゃって」

淡々と話すくのたまに関節技を決められている川西がバンバンと床を叩く。
おめでとうなんて言っといて完璧に八つ当たりじゃねぇか。
と思ったが、巻き込まれたくなかったからそっと視線を外した。
藤内なんて自分でさっさと手当てを始めていて、あからさまに“関係ありません”って顔だ。

「……ひ、酷いですよ先輩」
「あーあ。間接技なら上達したのになぁ。手当てする?」
「ぼくじゃなくて、富松先輩と浦風先輩をお願いします。ぼくは先輩にやられたおかげで腕が痛いので」

刺々しく言いながら腕をさする川西の台詞に嫌な予感がする。
ようやくおれたちに気づいたくのたまが、こっちを向いてにこりと笑った。

「……なあ藤内、逃げねぇ?」
「おれはもうすぐ終わるから、このまま自分でやっちゃうよ」
「ひでぇ!」

小声で相談してみたのに、藤内はそれをあっさり蹴って手当ての続きに戻る。
ならおれは、遠慮なく逃げるからな!

「――ってぇ!!」
「あ、腕にも怪我してたの?ごめん」
「ちっげーよ、握りすぎ!!」

腕を強い力でぎっちり捕まれたことに文句を言えば、くのたまは溜息をつきながら力を弱めた。

「柔だなぁ、三年生のくせに」
「あ、あんた、なんなんだよ!」
「私?くの一教室の苗字名前。幽霊気味の保健委員です」
「…因みに苗字先輩は四年生です」

にっこり笑顔のくのたまの自己紹介に川西の補足が入る。
まさかの年上に驚いていたら、いつの間にか両腕を捕まれていた。

「逃げようとしても無駄だからね。そっちの浦風って子も。ちゃんと確認させて?」
「……はい」

じりじり戸口の方へ動いていた藤内は、その一言でピタリと動きを止めた。
自分だけ逃げようったってそうはいかねぇからな!





~作兵衛と特訓することになりました~





「…苗字先輩、楽して上手くなんてなれるわけねぇでしょ。おれの手裏剣にそんな便利なまじないは掛かってません」

ちぇ、と唇と尖らせる苗字先輩に溜息をつく。
そんな甘っちょろいこと言ってっから上手くなれねぇんじゃ……とは思ったものの、口には出さないでおいた。

「藤内だって川西だって、きっちり練習したからクラストップになれたんですよ」
「でも作兵衛の手裏剣のおかげだって言ってたよ」
「……ん。あんたが持ってるやつとなんか違いますか?」

回収した手裏剣を先輩の手に乗せてやれば、苗字先輩はそれを持ち上げて、日に透かしてみたり引っくり返してみたりしながら益々眉根を寄せた。

「…この印になにか秘密が」
「ありませんって!」

苗字先輩が“ト印”を撫でるのを見て、何故かドキッとした。
目を逸らしながら装束を掴めば、なんだか心臓が速い気が――

(…なんだこれ…意味わかんねぇ……)
「作兵衛、見本」
「っ、ちゃんと見ててくださいよ」

苗字先輩から手裏剣を受け取って、的に向かって打つ。
カッと中心近くに刺さったそれを見て、先輩はパチパチ手を叩いた。

「さすが作兵衛。かっこいい」
「……打つとこ見てました?」
「もちろん!」

胸を張ってそう言うと、すっくと立ち上がって手裏剣を取る。
持ち方からして既に違うのはどういうことだ。

苗字先輩、こう持つんです」
「ん、こうでしょ?」
「そうじゃねぇ……あー…ったく…苗字先輩は力入れすぎてんですよ」

苗字先輩の向かいから隣に移動して、手元を覗き込んで直接持ち方を教える。

(手、ちいせぇ…指も細ぇし……)

これであの馬鹿力を発揮できるのが不思議でしかたねぇ。

「作兵衛?」

苗字先輩が不思議そうにおれを呼ぶ。
自分で思うよりも長い時間眺めてしまっていたらしい。
ハッと顔を上げたら、間近に先輩の顔があっていい匂いがして……って違ぇ!

「う、打ってみてください!それで!」
「…そんなに勢いよく離れなくても…」

ブツブツ不満そうな声を漏らす苗字先輩が的を見据えるのを見守りながら、心臓を押さえる。
ドクドクうるさい。
今度は気のせいじゃないってわかってる、けど、絶対おかしいんだ。

――だってこんなの、おれは知らねぇ。

大きく振りかぶった苗字先輩は、お約束どおり的から大きく外れた場所へ、手裏剣を突き刺していた。





「消えた手裏剣の段」で男前な作兵衛にときめいたので。
べらんめぇ口調って難しいな…


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