▼利吉→名前(鈍感)ver/
私は自分が女性にどう見られているか知っている。
それを仕事に利用することも多々あるし、我ながら後腐れなく立ち回ることもできると自負していた。
しかし、肝心の――私が一番効果を発揮させたい相手に通じないとは。
世の中は実に上手くできていると感心するほどだ。
「利吉さん?」
「名前、もう少しこちらへおいで」
微笑みながらさりげなく肩を抱き寄せる私に、はい、と聞き分けよく返事をして身を寄せる名前。
常ならばこれだけで相手の女性は真っ赤になってくれるのだが、彼女には通じない。
そればかりか名前はくすくす楽しそうに笑い、「役得ですね」と呟いた。
彼女の中では私の演技力が高い程度の認識なのだろう。
――現在、私と名前は忍務の一環で夫婦ないし恋人を装っている最中である。
故に仕事パートナーとしては完璧なのだが、私個人としては少しくらい意識して欲しいと思っている。
公私混同してしまうなんて、我ながらまだまだ未熟だ。
「利吉さん、腕を借りてもいいですか?」
「あ、ああ、もちろん」
そっと腕にまわされた手にドキリとした。
意識させるはずだったのに、私が動揺してどうする。
内心動揺しつつも仕事は完璧、そんな利吉さんが理想
真意はどこに
豆腐部屋
561文字 / 2012.01.25up
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