※竹谷視点
――最近の趣味はと聞かれたら、小動物と遊ぶことって答えるかもしれない。
俺の向かいで黙々と箸を進めている苗字をちら見して、そんなことを考える。
見られていることに気付いたのか、苗字は僅かに視線を上げ、目が合った拍子にびくりと肩を跳ねさせて素早く俯いた。
「……た、食べないの……?」
お、しゃべった。
食堂内の喧騒に紛れてしまいそうな小さな声だけど、それを聞き逃すなんて勿体無いことはしない。
にやけそうになるのを押さえて「食べる」と返せば少し安心したような顔。苗字が表情を変えるたびに正面に座って正解だったなと思う。
ちょうど人がまばらな時間帯で、他にも空いている席はあるのにと凄く不思議そうな顔をしていた苗字を思い出した。
「…あの、竹谷くん」
「ん?」
「私、食べ終わったから、その…」
先に席を立つことを断っているらしい苗字は遠慮がちで、俺は少し考えてから腕を伸ばし、膳を掴んでいた彼女の手を握った。
案の定驚いておろおろしだす苗字はやっぱり小動物みたいだ。
「俺が食べ終わるまでいてくれないか?」
「でも、私がいても…楽しくないんじゃないかと」
「それは俺が決めることで、俺はまだお前にいてほしい。いいだろ?」
苗字の言葉を途中で遮ってさっきよりも強めに言いながら、さりげなく手に力を込める。
ためらいがちに視線を泳がせていた苗字はちらと俺を見上げて(上目遣いが可愛すぎる)、席に座りなおした。
――ああやべぇ、にやけが押さえきれねぇ。
「苗字って優しいよな」
「……気が、弱いだけだよ……」
ふるふる首を振って答える苗字に、今の誘い方はちょっと強引だったかと思ったけどそんなのはすぐに消えた。むしろここはもっと押すべきだろ。
「なあ苗字、この後時間あるか?」
何度も瞬きをして考える様子を見せ、最終的にこくりと頷いた苗字に内心でガッツポーズをした。
この後告白するつもりでした。
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豆腐部屋
856文字 / 2011.12.01up
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