カラクリピエロ

メイン長編初期設定

初期設定(1)
※出張髪結い師から繋がる感じ。





段々小さくなる会話を見送って罠を回避しながらようやく目的地、飼育小屋までこられた。近くにいる大型犬に思い切り抱きつく。
そういえばいつもはカゴの中にいるはずの仔ネズミはどうして外をウロウロしていたのか。

(中に入りたくないなぁ…)

だって嫌な予感しかしない。
呼ばれるまでは気づかない振りをしていよう。そうしよう。

みんなの鳴き声で歓迎されているらしいことを感じながら、私は群がる動物たちに癒される。
――何も考えずにこのままでいたい。
そう思うのに、同時に"どうしたらいいんだろう"と今後を考えてる自分。
つい先ほど着物が汚れるのを気にしていたはずが、今や私は動物たちにもみくちゃにされて泥だらけだ。

名前!」

あーあ、見つかった。
私の癒されタイムはどうやら終了らしい。

「竹谷は虫取り網似合うねー」
「お前なぁ、近くにいたなら手伝ってくれよ!どうせ気づいてたんだろ!?」
「だってめんど……虫は苦手だし…」
「さっさと克服しろ!ついでに今回は虫だけじゃないんだ、面倒でも付き合ってもらうからな」

まったくこの男は聞き逃していいところばっかりちゃんと聞いている。
重い腰を上げて本日の被害状況を聞く。
いつも通りの毒虫と小動物が数種類。
動物は大好きだけど虫は苦手な私を(一応)気遣ってくれているのか、竹谷は動物の方を回収して欲しいと言ってきた。

「この子たち使ってもいい?」
「後で全部戻してくれるなら好きにしてくれ。一年連中はお前と同じ動物のほう探してもらってるからな」
「うん」

忍犬としてしつけ中の数匹を放しながら竹谷の報告を耳に入れる。

「俺は孫兵と毒虫回収して周るけど、もしそっちで見つけたら連絡くれ」
「わかった。じゃあ一匹ずつ連れてって」
「…虫喰わねぇ?」
「大丈夫だよ、その辺は教え終わってるから」
「そっか。孫兵ー!」

(単独で動くより、先に一年生を拾ってから探した方がいいかな…変に茂みにつっこんで毒虫に触ったりしたら危ないし)

どうしたら効率よくいけるかを考える途中で、竹谷と同じく虫取り網を片手に持った孫兵が傍に来た。
じっと私を上から下まで見て、おもむろに溜息をつく。

(喜八郎といい孫兵といい、先輩に対して失礼じゃない?)

「…孫兵、言いたい事は?」
「はっきり言っていいんでしたね。では遠慮なく。じゅんこを見習って少しは苗字先輩も身なりに気を遣ったらどうでしょう、仮にも女性なんですから」
「か、仮にも…って…ひどい…!」
「僕に泣き落としは効きませんので。見苦しいです」
「~~~~ッ、竹谷!」
「俺にあたるなよ!」

ぐさぐさとつき刺さるセリフを淡々と述べる孫兵は「じゅんこは綺麗だよ」と甘い言葉を恋人(?)に囁いている。その優しさをほんの一握りでもいいからください。

「まぁ孫兵の言うことも一理ある…睨むなって!その着物じゃ動きづらいだろ」
「……確かに……先に長屋寄るよ」
「そうしろ。じゃあ、休日のところ悪いけど宜しく頼む」
「それはみんな一緒でしょ」

思わずクスと笑って言うと「それもそうだな」と爽やかな笑顔が返ってくる。
竹谷のこれは見ていて気持ちがいいなぁといつも思う。

…………少し、相談に乗ってもらえるだろうか。

「ね、竹谷」
「ん?」
「終わったらちょっと時間もらってもいいかな」
「あ?ああ、別に構わねぇけど…なんだ?」
「うん…それは、その、あとで!それじゃ、ちゃきちゃき回収しちゃおう!孫兵も頑張ろうね!」

竹谷と孫兵に背を向けて足早に長屋を目指す。
さすがに裾を乱して走ったりしたらシナ先生に見つかったときが怖いからやらない。
チラ、と横を走っている忍犬を見て、この子がもうちょっと大きかったら乗って移動できるのになぁとひっそり思った。






苗字先輩なにかあったんですか?」
「さあ…」
「話ってなんでしょうね」
「さあ…」
「…………竹谷先輩、顔赤いですよ」
「は!?」
「嘘です」
「ま、孫兵、お前な……」
「早く探しに行きましょう。僕の可愛い毒虫たちが踏まれでもしたら大変ですから」
「あ、ああ、だな」




初期設定(2)
※竹谷視点





「…でね、かくかくしかじかで見合いから逃げ出してきたってわけ」
「へー…」
「もっとなんかないの!?」
「っても俺無関係だし」
「関係大有りだよ!!」

がしっと忍装束を掴んできた名前の肩に手をやって軽く離す。

「まぁ落ち着けって。な?」

興奮した動物を宥めるには撫でるのが効果的か。
そんなことを考えながら名前の頭に手をやった。

「どうでもいいですけど、騒ぐなら別の場所へいってくれませんか」
「「孫兵」」

俺と名前の声が被さり、呼ばれた本人は嫌そうに顔をゆがめる。
孫兵の首元にはいつも通り紅のヘビが巻きついているのが見えた。

それを目に入れた途端、名前は立ち上がり孫兵に近づくと手を伸ばした。
触れる直前身をかわされて、名前の両手は空を切っていた。

「孫兵!いじわる!」
「気安くじゅんこに触らないでください」
「いいじゃんちょっとくらい!過度な独占欲は醜いよ!」
「どうとでも。それより先輩、いきなり胸倉を掴むのはどうかと思いますよ。竹谷先輩も苦労しますね」
「い、いきなり俺に振るなよ」

咄嗟に言い返すと孫兵は僅かに首を傾げながらじゅんこを撫でる。

「――だって名前先輩は竹谷先輩のために見合いを放棄したんじゃないんですか?」

その一言に俺と名前が固まった。
直後「それはないねー」と笑顔で言い放つ名前の言葉を聞いてこっちを哀れみの目でみてくる孫兵。なんでだよ。

「孫兵さっきの聞いてたの?」
「ええ、苗字先輩が大きな声で騒いでくれてましたから」
「まあ聞かれて困る話でもないからいいけど…竹谷に関係あるって言ったのは、私の好きな人が竹谷の友達だから」

言われた内容には、孫兵よりも俺の方が驚いていたと思う。
俺に“関係あること”はこれから聞きだすところだったのに、なんの心構えもなく(ついでに名前の恥じらいもなく)あっさりと。

「…僕はてっきり竹谷先輩と恋仲なのかと思ってましたが」
「ないない。竹谷は兄さんって感じかなー。孫兵は弟ね」
「勝手に加えないでください」
「嬉しいくせにー」

笑って孫兵を小突く名前を煩わしそうにしながらも、孫兵の耳は少し赤い。
それに気づいたらしい名前は身を屈めて顔を覗き込もうとしていた。

「っ、じゅんこ!」
「あれ、いいの?」

孫兵の掛け声でじゅんこはするすると名前の腕を伝って移動した。
それをぼんやり眺めていた俺はふと視線を感じて孫兵を見る。

言いたい事があるけど言いにくい……そんなところか。

それに耐え切れず、俺はひとつ息を吐き出して孫兵を呼んだ。

「ねぇじゅんこ、どうすればあんな風にメロメロになってもらえるの?もしや魅惑の毒?あ、ちょ、まって、ごめん冗談!試すのは嫌です!」

僅かに離れたところでじゅんこと戯れる名前の声を耳に入れながら孫兵と額を付き合わせる。

「…あのな、お前が誤解してるみたいだから訂正しておくけど俺は別に名前のこと好きじゃねぇから」
「………………そういうことにしておきます」
「いやいやほんとだって!あいつも言ってたけど兄妹みたいなもん!」
「でもショック受けてたじゃないですか」
「あれはショックじゃなくてビックリしたんだよ。あいつの"好きな人"が俺の友達とか思ってもなかったからな」

なおも疑わしげに見てくるがこれ以上言えることもない。
孫兵の頭をポンポンと軽く叩いて「この話は終わりな!」と切り上げた。

名前
「ん?」
「俺、気の利いたことなんてできねぇぞ」
「あはは、そんなことまで期待してないよ。ただ呼び出しのお手紙を渡して欲しいだけ。忍たま長屋に忍び込んでっていうのも考えたけど、安全策があるならそっち取りたいでしょ」

孫兵にじゅんこを返しながら、名前は笑ってそう言った。
まぁそれぐらいなら。

「手紙なんて書かなくても場所と時間伝えるくらいなら引き受けるけど?」
「現場を覗かれそうだからお断りします」

先ほどとは種類の違う(くのいち特有のとでも言うのか)笑顔に少しぞくっとした。
くのたまから植えつけられているトラウマは根強い。




初期設定(3)
※竹谷視点→久々知視点





「じゃあこれ」
「ん」
「読まないでね」
「読まねぇよ!」
「うん。一応言ってみただけ。ついでに念には念を入れたいからこの子も」

チチュ、と鳴いたそれが名前から俺に移動して肩に乗る。
名前の可愛がってる子ネズミだ。

「じゃ、よろしくね」

子ネズミの名を呟いて人差し指でそっとなでる。

「信用ねぇな…」
「やだなぁ、信用してるって。恋する乙女は慎重なだけ」
「ハハッ」
「その笑いはなにかな竹谷八左ヱ門くん」
「早速行ってくるな!また明日!」

俺の名前をしっかり呼ぶときの名前は危険だ。
経験から察した俺は素早く名前から離れ、手紙の宛名を確認するために封筒をひっくり返した。

チチ、と肩のネズミが小さく鳴いた。


+++


「兵助、これやる」
「あ?」

学園に戻ってきたばかりの俺に、前振りもなにもなく八が差し出した封筒。

――久々知兵助様

反射的に受け取ったそれには丁寧な字で俺の名前が書かれていた。

「…それどうしたんだ?」
「んー、預かりもん。可愛いだろ」

手紙よりもちょこまか動く小動物のほうが目に付いて尋ねれば、八は表情を崩してネズミを撫でようと指を伸ばす。

「――ッ、」

懐いていないのか、容赦なくその指を齧られながらも黙って痛みを耐える様は(八には悪いが)ちょっと面白い。
笑う俺に、涙目の八は「読まないのか?」と聞いてきた。

「誰から?」
「中に書いてあるんじゃねぇか?」

どうやら送り主を言う気はないが、内容は気になるらしい。
仕方ないなと軽く息をついて封筒に手をかけると、「うわっ」と八が声を上げた。

「どうし…………どうした?」

思わずじっくり観察して聞きなおしてしまった。
どういうわけか八は立ち上がって、合わせた手のひらに向かって話しかけていたから。
そこからはチチ、チチュ、と忙しなく鳴き声が漏れている。

「わかった、わかってるよ!聞かないし見ないっ!約束したもんな!…っくそ…しつけよすぎだろ…」
「八?」

俺の問いには答えず(聞こえていないのかもしれない)恨みがましく付け足すと、挨拶もそこそこに部屋を出て行った。

なんだかよくわからないが、この手紙に関係していたんだろうか。
ピタリと閉じられた封を開けて中身を取り出す。

宛名書きと同じ、『久々知兵助様』で始まったそれは単純な呼び出し文書だった。
――申の刻に、誰にも知られず図の場所へ来て欲しい。


『読み終わったら燃やしてください』


最後に添えられていた名前の後ろに追伸としてあった一文が妙に印象的だった。

しかしどうしたものだろう。
差出人の名前は知っていたけれど、これまでの経験からくのたまの呼び出しにはろくな思い出がない。かといって八もグルになって俺を騙すという線は薄い気がする。

Powered by てがろぐ Ver 4.4.0.