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答14.おまけ
※久々知視点
そんなわけで名前を交えての飲み会と相成ったわけだが、勘右衛門が持ってきた酒を興味深そうにみつめる名前を横目に緊張してきた。
名前は俺の酔うところを見たいといったけど、そんなの俺だって同じだ。
愚痴っぽくなるのか素直にぺらぺら喋りだすのか、それとも酒豪なのか。笑っても泣いてもいいけれど、脱いだりキス魔だったりしたら即引き上げさせたい。
だから名前の傾向がわからない今回、俺は酔うわけにはいかないんだ。
乾杯の合図の後、一口飲んで思わず咽てしまった。
口当たりが良く飲みやすいが、強い酒だ。
勘右衛門を見ると笑顔でぐっと親指を立てて“飲みすぎるなよ”と合図してきた。みんなを見ればいつもよりゆっくりした調子で飲み進めているのがわかる。
つまり、彼女の酔うところを見たいのは自分だけじゃないということだ。
「名前、」
「ん?」
「…ゆっくり飲むんだぞ」
「うん」
にこにこしながら「おいしい」と呟く名前を用心深く見守る。
時折飲んでるかを問いかけてくる名前に頷きを返しながら、あまり代わり映えのない彼女は雷蔵と同じく酒豪なのかもしれないと思い始めた。
室内の一角で愚痴る勘右衛門を笑い飛ばす八、その横では三郎が雷蔵にいかに感謝しているかを語っている(雷蔵は聞き流しているが)。
「兵助、酔ってない?」
「大丈夫だ」
「…あれ、ほんとに酔ってないや」
「今日はさすがにな」
さすが、と笑う雷蔵との会話中、名前が俺の袖を引く。
彼女がこうして会話に割り込んでくるのは珍しい。なんだ、と問いかけながら名前を見たら、彼女はにっこり笑ってポンポン自分の膝を叩いた。
「え」
「どーぞ」
「名前?」
動揺して固まっていたら、今度はきょとんとして「まだ?」と口にするから、反射的に頷いていた。
「名前、酔ってる?」
「酔ってないよ?」
「…兵助…」
名前に質問した雷蔵が、これは酔ってるよね、と目配せしてくる。
同意を返そうとした瞬間、腕にぎゅっと抱きつかれて心臓が跳ねた。
「だめ!」
「「え!?」」
「わたしの!」
驚く俺と雷蔵なんてお構いなしで、名前は若干呂律の怪しい口調で雷蔵を見ていた。
「…うん、ごめんね。取ったりしないから」
「ら、雷蔵…」
小さい子に語りかけるようにしながら名前の頭を撫でて、俺には「よかったね」なんて笑うけど、俺は全然予測してない事態に思考が追いついていない。
満足そうに頷いている名前にどぎまぎしていたら、彼女はそんな俺に気づいて楽しそうに笑った。
少し落ちつこうと目の前にあった酒をあおる。
じっと見られているのが落ち着かなくて、なかなか酒を離せないでいたら、ふいに頬に柔らかい感触が触れて、思い切り酒を吹き出してしまった。
「おぅわっ、兵助なにしてんだ!!」
「せっかくおれが持ってきたのに勿体無いと思わないのか!」
「これはこれは…すっかり酔いが覚める状況だな」
各々の台詞は届いているけど、俺はそっちに構っていられる心境じゃない。
動揺したせいで倒れた俺の上には名前が乗っているし、首には名前の腕が絡みついてて小さく笑い声まで聞こえる。
「名前、ちょっと、」
「久々知くんあったかい」
「ちょ…動くな、色々やばいから…!」
「はぁい」
いいお返事と共に擦り寄られていよいよ動けない事態になった途端、名前は静かになって僅かに重さが増した。
「…………寝た」
「名前は酔うとだいぶ積極的だね」
「小悪魔っぽいけどな。あー、すっかり酔い覚めちまった、おかわり!」
「俺も飲む…飲んで寝る」
名前を支えながら起き上がってそのまま酒を要求して、寝息を立てる名前から目を逸らす。とりあえず起きたら名前の酒は制限しよう、絶対に。
「…………覚えてるかな」
覚えていなくても、散々振り回してくれたお礼に軽くからかってやろう。
俺の装束を掴んで離さない名前の手をそっと包んで彼女を抱えなおすと、一気に酒を飲み干した。