※久々知視点
「…今なにか聞こえなかった?」
名前の頬についた泥を拭った直後、名前はあさっての方を向きながらポツリと呟いた。
「藤内の声だった気がするんだけど」
俺が答える前に付け足すと、こっちをみながら僅かに首を傾げる。
──“聞こえたよね?”
そう確認したいんだろうけれど、ここで頷いたら名前はどうする?浦風を追うんじゃないか?
「…俺は気づかなかったな」
些細な嘘をつきながら浦風がいた辺りへ目をやると、草むらから四年の装束と鋤がはみ出ているのが見える。
わざとなのか偶然なのかわからないが、名前には見せたくない。
指の背で名前の頬を撫でると、彼女は素早く瞬いて再度頬を朱に染める。
それが嬉しくて顔を緩ませると、名前はさらに顔を赤くして視線を下げながら自分の手で頬を擦り始めた。
「もうついてないよ」
「本当に?」
「信用ないな」
「…久々知くん、たまに意地悪言うから…」
「じゃあ鏡で確認しないと」
言いながら名前の後ろに回って肩を押す。
ちら、と草むらを見れば綾部が庄左ヱ門を引き連れて遠ざかっていくところだった。
「名前…」
「ん?」
「ごめんな」
「え?」
きょとんと目を見開いた名前がしきりに頬を擦る。
くす、と漏れてしまった笑いを聞かれたせいか、顔を逸らされてしまった。
「ごめん」
その三文字に色々な想いをのせながら、俺は名前の手を握った。
答04.おまけ
619文字 / 2011.07.13up
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