カラクリピエロ

素直になれない(2)


※竹谷視点





だんまりを決め込む名前は忙しなく視線を泳がせて、ある一点――部屋の戸口で止める。
こいつ逃げる気だと思った俺は咄嗟に逃げられないように名前の腕を掴んだ。

「は、離して!」
「質問に答えたら離してやる」

名前が言葉を詰まらせた隙に両腕を掴み、向かい合わせに座らせる。
無駄だってわかってるくせに、悔しそうな顔で俺の手を振り解こうとしている様子に笑いが漏れた。

「なあ、名前は俺のこと好きだろ?」
「だから!なんでそれが当たり前みたいに聞くのよ!」
「違うなら違うって言えよ」

わかりやすく促してやれば、また口をつぐんで俺を睨むように見上げてくる。
うっすら涙が浮いているのは言葉が浮かばないからってわけじゃなさそうだ。

「………………嫌いじゃ、ない」
「なら」
「――けど!まだ好きじゃないから!!」

憮然とした表情で間髪入れずに飛んできた答えに、俺は思いっきり間抜けな顔で間の抜けた声を返した。

「なんだそりゃ」
「…………私ね、八左ヱ門がMだって聞いてから、ずっと考えてたの。八左ヱ門が私の…わがまま、に…付き合ってくれるの、だからなのかなって」
「違うっつの」

まだ話は終わってない、と名前は俺を制するけど、そこはしっかり訂正しておきたいんだよこっちは!

「私は違ってたらいいって思ってたから、さっき八左ヱ門の…聞いて、嬉しかったけど……でも、実際わからないじゃない!」
「…………は?」
「も、もし、私がわがまま言わなくなったら、八左ヱ門は私に興味なくなるかもしれないじゃない!!」

――だから、まだ好きにはならない。

呆然とする俺を前に、名前は俯いて顔を隠しながら涙声で呟いた。

「…それって、既に俺のことすげー好きって言ってねぇ?」
「言ってない!」

だって、なぁ。俺に名前を好きなままでいてほしいってことだろ?

もう答えたんだからいいでしょ、と身をよじる名前の腕を解放し、逃げられないようにすかさず抱き締める。
勝手ににやける顔を名前の頭に押し付けて、気付けばもう一度「好きだ」と言っていた。

「っ、やだ、言わないで」
「だから俺はMじゃねぇって言ってんのに……――なら、仕方ねーからこっちにする」

ぐいと名前を上向けて口付ける。
柔らかい唇を何度も食むようにして吸い付くと、その度に名前の掠れた声がするもんだから、それに煽られて口付けを深くした。
もがく名前を押さえこみ、逃げる舌を絡めとる。苦しそうな息遣いに興奮して余計に追い込みたくなった。

「は…、はち、ざ……」
「…ん」

くたりとすっかり力の抜けた名前を見下ろして、触れるだけのキスをする。
これが最後。と、言い聞かせたのは何度目だったか。

頭の隅でそんなことを考える俺をよそに名前は弱々しい力で俺の装束を掴み、顔を押し付けるようにして胸元へ寄りかかってきた。

――ああくそ、可愛いな!!

もたれかかってくる名前を抱き締めて髪に顔を埋める。
ビクッと肩を跳ねさせた名前が何度も俺の腕を叩き、胸を押した。

「いってぇ!!」

名前の顔を見ようとした途端、両手で頬を挟むように叩かれる。

「まだ、話、途中!!」

ひりひり痛む頬に手をやる俺に、名前は真っ赤な顔でそう言った。
そんなことより息切れがなんかエロいよなって言ったらまた怒られた。

「で、話ってなんだ?」
「……確かめたいの」
「なにを」
「しばらく…八左ヱ門に頼みごとするの、やめようかと思って」

――つまり、俺を試したいってことでいいんだな?

自分で言い出してるくせに名前がしょんぼりして見えるのは俺の願望なんだろうか。
言って納得しないなら付き合ってもいいと思うし、名前が俺を好きになるために必要なら別に止める気はない(っつーかむしろ歓迎する)けど、その間名前が俺を呼ぶことはないってことだよな。

「……なあ、それ俺がお前を呼ぶのは有りか?」
「………………は?」
「だから、俺が名前に頼みごとしてもいいのかって」
「……嫌」
「なんでだよ、いいだろたまには」
「無理」

淡々と返していた名前は俺のしつこさに観念したのか眉間に皺を寄せ、例えば?と聞き返してきた。

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