カラクリピエロ

せめてこれだけ

※尾浜視点





最初は、ただ見てると面白いなあって好奇心だけだった。
おれたち(特に三郎や八左ヱ門)に対しては結構ざっくりっていうか、時々冷めてるって言ってもいいくらいの態度をとるのに、それが兵助相手のときだけは全然違う。

ぱっと表情が明るくなって、声が弾む。受け答えにいっぱいいっぱいって感じだけど、それでもすごく嬉しそうで…素直に可愛いって思った。

名前は積極的な面を見せるときもあるけど、大体においては控えめだと思う。
どんな些細なことでも“兵助が関わった”ってだけで、呆れるくらい喜ぶ彼女をすごいって思ったこともある。

ほんのり赤く染まった顔で、にこにこしながらおれに報告する名前を見て――兵助が羨ましい、って思うようになったのはいつからだっけ。

「勘右衛門、考え事?」
「おれさー」
「うん」
名前が好きみたい」
「へ!?」
「うん、好き」
「な、え、ええ!?」

白湯を飲んでいた名前は、その湯のみを手から滑らせて鈍い音を立てる。
幸い着地の姿勢がよかったのか、たおして溢したりはしなかった。

ぐらぐら揺れる湯のみから名前に視線を戻すと、彼女は目を大きく見開いて口をぽかんと開けていた。

名前、口開いてる」

笑いながら言えば慌てて手の甲を口元にやって素早く瞬きを繰り返す。
段々顔を赤くしながら目を白黒させてるから、言われた意味を理解するのに忙しいんだろうなって思った。

「か、かんえもん?」
名前はさ、兵助のこと好きだよね?」
「う、ん…」
「それとおんなじ意味で、おれは名前が好きって言ってる」
「ででで、でも、私は、久々知くんが、す、好きだよ!?」
「知ってるってば」

名前の必死な様子に思わず吹きだしながら、内心では喜んでる自分がいる。
赤くなって焦って、兵助が好きだと主張してくるってことは、ちゃんとおれの“好き”が伝わったってことだ。

「……別に“兵助じゃなくておれにしろ”って言ってるわけじゃないんだ」

緊張した面持ちで、じっとおれを見て頷く名前ににっこり笑う。

名前はそのままでいいからさ、」
「うん」
「おれにも好きなようにさせてよ」

名前はパチパチと何度も瞬きを繰り返し、やがてゆっくり頷いた。

「ほんとに意味わかってる?」
「わかってる、つもり。……もう久々知くんのこと、報告できないね」

眉尻を下げて笑いながら、今まで聞いてくれてありがとう、なんて言ってくれちゃうんだから――敵わないなって思う。

「いいよ」
「ん?」
「いいよ、別に。気にしないで聞かせてよ。おれ、兵助のこと話してる名前見るの好きだし」
「……私が気にする」
名前は優しいね。けど、おれそういうとこにつけこむの、ためらったりしないから」

後悔しないでね、って付け加えたおれを見て“早まったかな”って顔する名前がわかりやすくて可愛い。

ちゃんと好きなようにするって言ったんだから、もちろん遠慮なんてするつもりはない。

「…勘右衛門て、すごいね」
「だって名前はまだ両思いじゃないじゃん」
「…………そうだけど」

ムスッとして唇を尖らせる名前は「それでもさ」とブツブツ言っている。

まあね。
おれだって望みがすっごく薄いこの状況でって思ったりするけど。

「あとで後悔するよりは、勝負しようかなって」
「…………」
名前ならわかるでしょ?」

なんでか悔しそうに頷く名前に笑うと、なんで笑うのと怒られてしまった。





プチリク消化。
勘右衛門が名前さんに対する恋愛感情を少しだけ表に出した話、でした。少しどころじゃないっていう……畳む


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