お菓子をくれなきゃ…(Treat)
「あった!はい、どうぞ」
「…………」
要求どおりお菓子――飴玉を発見して手渡そうとしてるのに、三郎は憮然とした表情で受け取ろうとしない。
「もー、なんなの?食べたかったんじゃないの?」
「これでは悪戯できないだろ!」
「……だから渡してるんだけど」
三郎自身が提示したからか、お菓子で悪戯回避のルールはちゃんと守る気らしい。
結局どういう日なのかよくわからないままだけど、三郎の悪戯が発動しないなら飴玉ひとつ安いものだ。
いっそ毎日そういうルールで動けばいいのに。
「………………つまらん」
「あ。」
ぼそりと呟くと、三郎はひょいと飴玉を口に放り込んでそれきり黙ってしまった。
物を食べてるせいもあるかなと思ってみたけど、よっぽど悪戯したかったらしい。
「何する気だったの?」
「…………」
「ねえ、三郎」
「…………」
「三郎?」
覗き込むと顔を逸らす三郎にムッとした。
――そこまで不機嫌にならなくてもいいのに。
半ば意地になった私は、立ち上がって上から三郎の顔を押さえる。
珍しく驚いた顔を見せた三郎に気をよくして顔を緩ませた直後、三郎の口元が笑みの形に歪んだ。
「な――、うわ!?」
あっと思う間もなく腕を引かれてバランスを崩す。
気付けば三郎の膝の上で横抱きにされ、目の前に飴玉を突き付けられていた。
「…………何これ」
「苺味」
「そうじゃなくて、今のこの状態」
「悪戯できないなら甘やかしてやろうと思ってな」
「これが!!?」
いつの間にか逃げられないようにしっかり抱えられてるし、これじゃあ悪戯と大差ない。
落ち着かなくて、ニヤニヤしながら「あーん」なんて言いはじめてる三郎から顔を逸らすと、今度は顎をつかまれた。
「そうかそうか。名前は口移しがいいんだな?」
「そ、そんなこと言ってないでしょ!?食べる、食べます!」
「…………微妙に喜べないな」
ブツブツ言いながらも私の口元に飴玉を運ぶ三郎の“あーん”に合わせて口を開ける。
コロリと転がってきた甘さを感じながら両手で口元を覆ったら、次の瞬間額に口付けられて、驚いた拍子に飴玉を飲み込んでしまった。
「~~~~~!!の、飲んじゃったよ!!」
「馬鹿だな、なにしてるんだお前は」
水を手に溜息をつく三郎からそれを受け取りながら、額を押さえる。
誰のせいだと思いながら睨んでも効果はなく、涼しげな笑みが返ってくるだけだった。
――悪戯と、どっちがましだったんだろう。
1058文字 / 2011.10.30up
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