※尾浜視点
「勘右衛門……!」
箱を両手で持ったまま、名前はいかにも“感動してます!”って感じでおれを見た。
ぱあっと明るくなる表情とほんのり赤く染まった頬で喜びを表現されて、つられて口元が緩んでしまう。
うまく言葉であらわせないのか、名前の口からはさっきから「すごい!」って単語しか出てきてない。
見てって言いながらおれの方に箱を押し付けてくるもんだから、笑いが声にでてしまった。
これ買ってきたのおれなんだから、どんなのが入ってるか知ってるのに。
デフォルメされた小さな動物。犬、猫、ウサギ。クマ…なんかもあったっけ?とりあえず可愛らしい感じのをいくつか見繕ったはず。
「気に入った?」
「うん、可愛い!」
「……そうだね、可愛いよ」
そうやって喜ぶ名前が。
おれの相槌を聞いて「勘右衛門もそう思う!?」と軽く興奮気味な彼女の隣に移動して、お菓子で出来た動物たちを指差した。
「名前はどれが一番好き?」
「一番!?一番かー……」
真剣に悩み始めてしまった横顔を見ながら距離をつめてみる。
一つのことで頭がいっぱいになってる名前はおれの行動に対して気を払わないから、この隙に。
寄り添って、ついでに体重もちょっとかけてみたりして。
「一番は難しいんだけど……あ、ねぇ勘……って、なんか近いよ!?」
「気づくの遅いよ名前。おれずっとここにいたのに」
逃げられないように腰に腕を回すと、さすがに驚いたらしい名前が小さく悲鳴をあげた。
「か、かんえもん…」
「うん、何が聞きたかったの?」
たどたどしくおれを呼ぶ名前をあえて無視して、話題を掘り返す。
名前の手は箱の蓋をいじるのに忙しなく動いていて、落ち着きがない。
今、きっと真っ赤だろうな。見えないけどさ。
ちょっと体温も上がってきてるみたいだし、絶対そうだよね。
(なんか楽しくなってきた…)
更に腰を抱き寄せようとしたら、名前はおれの手を上から押さえて「だからね!?」といささか強く切り出してきた。
なにが“だから”なのかよくわかんないけど、こういうときの名前は自分でもよくわかってないはずだから、気にするだけ無駄だ。
「なに?」
「ええと、だから、その…勘右衛門の一番、なにかなって…」
「聞きたい?」
少し身体をずらして顔を覗き込むと、思ったとおり赤かった。
こくこく何度も頷く名前は、きっと今の状況をどうにかしたいんだろう。なんでもいいから答えて欲しいって感じだし。
おれは必死な様子を見せる名前ににっこり笑って、ピッと彼女を指差した。
「名前」
「勘右衛門…動物の話、してたんだけど」
「だから、名前だって。ヒトだって動物なんだし、間違ってなくない?」
おれから視線を逸らして、ついでに名前を差したままだったおれの指先を掴んだ彼女は小さく「ずるい」と呟いた。
――それは、褒め言葉として受け取っておこうかな。
「おれは名前が一番好きだよ。大好き」
「わ、わかったよ!もう充分!」
「名前もでしょ?」
「な…、」
「名前も、おれが一番好きでしょ?」
元々赤かった顔を更に赤くして、口をパクパクさせる名前に詰め寄る。
無言は肯定って思ってもいいかな。
「どうなの?」
「う、うん」
「それじゃわかんないよ。どっち?」
楽しくてつい笑っちゃったけど、そんなおれにムッとする名前も可愛い。
顔赤いから全然堪えないっていうか、逆に――
「こう、ぎゅっとしたくなるっていうかさ」
「わ、ちょ…っと、勘右衛門!」
「名前はいっつもいい匂いするよね。お菓子とは違うみたいだけど」
「なに言って……どいて!」
勢いがよすぎたのか押し倒しちゃったけど、まぁいいか。
身体をひねって抜け出そうとする名前の顔の横に手をつくと、気まずそうに見返された。
「答え、聞かせてよ」
「自分で、言ってたくせに」
「うん。でも、やっぱり名前の声で聞きたいな」
「……だ、だから……私も………き、です」
本当はもうちょっとはっきり聞きたかったけど、今日は勘弁してあげる。
そっぽを向いてポツリと溢す名前の頬に口付ける。
ちゅ、と鳴ったそこを押さえて、名前は怒ったようにおれの名前を呼んだ。
→動物の形(尾浜)
1753文字 / 2011.02.15up
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