カラクリピエロ

→材料そのまま(竹谷)

※竹谷視点





「…竹谷さ、イベントの趣旨わかってる?」
「お前なぁ…そんくらい俺だってわかってるっつの」

箱を開けた名前のあんまりな第一声に、思わず言い返す。
尚もそうかなぁと呟く名前にはちゃんと言葉で表さないと駄目らしい。

「好いた相手に菓子をやるんだろ?」
「うん、そう。わかってるのになんで、」
「何が不満……ああ、そっか。俺、名前のこと好きだぜ!」
「な、そ、そんなの知ってるよ!!」

なんだよ。言葉が足りないとか、そういうのが言いたいんじゃなかったのか?
名前はあっという間に顔を真っ赤にしてぶつぶつと何かを呟いている。

「だから、普通はこれを溶かして、色々…」
「どうせまた固めるんだろ?ならこのままでもいいじゃねぇか」
「そうなんだけど、なんか違う!」

名前曰く形やら加工の仕方やら色々あるらしい。めんどくせぇな。
話半分で聞いてたら、目ざとくそれを察知したらしい名前が「わかりました」とやけに丁寧に言いながら俺の腕を引いた。

「私と一緒に作ろ」
「は?」
「だから、食堂借りて一緒に溶かして固める作業をしましょう」
「なんで」
「だってせっかく貰えるのにこんな…ただの固まりだなんて……」
「胃におさまっちまえばおんなじだって」

わざわざ手を加えなくても美味いもんは美味い。
そう思う俺とは違って名前はどうしても食堂に行きたいらしい。
軽く唇と噛んで俯いていたと思ったら、そっと伺うように俺を見た。

「…どうしても、竹谷がちゃんと作ったのが食べたい」
「…………。…………しょーがねーなぁ」

名前のお願いには元々弱かった俺だけど、最近それが悪化しているような気がする。
確かめたことはないが、名前もそれに気づいてるんじゃないかと思うんだ。
でもまぁ、やった、と言いながら手を叩く名前のはしゃぎようが可愛いから、いっか。

連れだって食堂につくと、甘ったるい匂いが充満している。
犬だったらきついだろうなぁとどうでもいいことを考える俺をよそに、名前は食堂のおばちゃんとなにやら話をしていた。

「竹谷、使ってもいいって!」
「おー」

なにがそんなに楽しいのかわからないが、楽しそうな名前を見るのは好きだ。
エプロンを渡されて菓子作りが開始されたものの、俺は料理はともかくこっちはさっぱりで何をしたらいいかわからない。
言われるままの作業をしていると、隣から鼻歌が聞こえた。

「やけにご機嫌だな」
「うん。なんでだろ、私もよくわかんないや……そういえば、これ溶かして飲むと美味しいって聞いたことあるんだよね……はい。竹谷」
「……なに当たり前のように差し出してきてんだお前は」

名前は切り刻んだ材料を適当に湯呑に入れて適当にお湯を注いだものを満面の笑みで俺に向けている。
目の前でつくられたおかげで変な物は入っていないと知ってるから、それを理由にもできない。強引に突っぱねることもできたけど、結局俺はそれを口にしていた。

「……薄ッ!なんだこれうっすいぞ!?」
「…んー…びみょー…」

不味いと口からでなかったからか、俺から湯のみを受け取って同じように口にする名前が顔をしかめる。
残りを一気に呷った名前は残念そうにため息をついた。

「駄目かー…薄いってことは材料の方いっぱい入れればそれなりになるのかな」
「甘いもん欲しいなら普通に砂糖水飲めよ」

実験でも始めそうな言動に先手で釘をさすと、はいはいとおざなりな返事をされた。
実験台にされなければ名前が何をしようが気にしないんだけどな。絶対俺で試しにくるからなこいつ。

そうこうしているうちに材料は液体状になり、名前がまたぶつぶつ言いだしたところで作業が止まっていた。俺としては一番楽そうな型にいれて固めるを選択したい。

甘い匂いが鼻をかすめる。
ちょっとくらいはいいだろうと味見をすると、当然というか…元の固まりだったものと同じ味がした。

「あ、竹谷!何してんの!」
「味見。ん、お前もどうだ?」
「ば、ばか!できるわけないでしょ!」
「ちっ」

つい舌打って、指についた材料を自分で舐めとる。
勢いに乗せられてくれりゃなぁ……名前に限ってそれはないか。
仕方ねぇ、想像で我慢しとくか。

「…竹谷、そんなにじっと見られるとやりづらいんだけど…」
「俺の想像力は危険だ」
「は?なにをぶつぶつ言ってるのかわかんないけど、固めるからそれ貸して」

どうやら最終段階になったらしい。
結局のところ、俺がつくったって言えるのかどうかって手伝い具合だったけど、名前が納得してるならそれでいいのかもしれない。

あとは固まるのを待つだけ、と満足気にひと息ついた名前の手をとる。

「なに?」
「味見」
「あのね、それはもうい……!?ちょ、な、」

作業の過程でついたものだろう、名前の指についたそれを口に含むと、名前はこっちがびっくりするくらい震えた。

「や、っ、離し、た、たけ、や!」
「綺麗にしてや――いってぇ!?」
「よ……よ、っけーなお世話!も…ばか!」

あんまり馬鹿馬鹿言うなと反論しようと思ったけど、自身の手を抱え込んで真っ赤になってる名前を見たら、どうでもよくなった。

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