カラクリピエロ

→詰め合わせ(不破)

※不破視点





「不破くんぽい」

箱を開けて中身を見た途端、名前は小さく笑ってそう言った。

どれにしよう、どれが好きかな、もしかして嫌いなものもある?
そんな感じで動けなくなった僕の苦肉の作がこれ。色々な味の詰め合わせ。

箱いっぱいに詰まったお菓子。
それを一つずつ取り出しては仕舞う動作を繰り返す名前をじっと見つめる僕。
気に入らないとか、これは嫌いな味とか言われたらどうしよう。
そりゃ、もちろん好みはあるだろうけど…やっぱり喜んでもらいたい。

名前は箱の蓋を一度閉じて「どうしよう」と言いながら机に顔を伏せた。
だ、だめだったんだろうか…優柔不断すぎたかな。

「――すっごく贅沢だね!」
「……え?」
「だって!こんなにいっぱいだよ!?」

僕が何度も瞬きをして名前を見る間、彼女は勢い良く身体を起こしてまた箱の蓋を開けた。
かすかに聞こえる唸り声は、嬉しいからって思ってもいい?

「ひとりで食べるの勿体無いなー…でも、誰かにあげるのも……そうだ、一緒に食べよ?」

彼女の挙動を見守っていた僕は、ぱっとこっちを向いて嬉しそうに笑う名前に少し驚いてすぐに反応できなかった。
勝手に心臓が跳ねたのも原因だけど、これはしょうがない。

「一緒にって…僕があげたのに?」
「駄目かな、やっぱり微妙な気持ちになる?」
「そんなことないよ!」

しゅんとする名前に思わず返すと、また表情を明るくして「じゃあ一緒に」って言う変わり身の早さに、もしかして嵌められたかなってちょっとだけ思った。

「不破くんはどれにする?」
「そこで僕に振るんだ」

僕の迷い癖は相手を待たせるのが常だから、できれば『選ぶ』という行動自体控えたい。
せっかく名前といるんだし……って、こんなこと恥ずかしくて言えないけどさ。
迷わなければいい話なんだけど、それが出来たら三病用の補習なんて受けてないよね。

躊躇う僕を見て、名前は少し顔を赤く染めながら「だって、」と何かを言いかけた。

「だって?」
「ううん、なんでもないごめん!」
「聞きたいな」

首を傾げながら問いかけると、彼女は益々顔を赤くして勢い良く首を振る。
――名前、それじゃ余計気になるよ。

「それよりほら、選んで選んで」

ずいっと箱を目の前に突き出されて反射的に焦点がそれに移った。
色とりどりの包装に、甘い匂い。どれもこれも、それこそ選ぶ間はずっと…名前のことしか考えてなかったな、なんてことを思い出して少し恥ずかしい。

そっと名前を見る。
ぱちりと瞬きをした名前にまっすぐ見つめ返された上に微笑まれて……どうしたらいいかわからなくなった。
不思議そうに僕の名前を呼ぶ名前に、意味もなく「うん」と返事をする。
うんってなんだ、と自分に聞き返したい。

くすくす笑いながら「どうしたの?」って聞く名前の声が優しくて、益々心臓が早くなってしまった。
名前だってさっきまで焦ってたはずなのに、切替が早すぎると思う。

「………名前
「なあに?」
「その…これさ、嫌いなもの入ってた?」

聞くのは少し躊躇われたけどこれからのために聞いた。
彼女は確かめるように箱を覗いた後、僕の不安をあっさり砕いてくれた。

「入ってないよ。全部好き」
「――じゃあ…僕が選んだやつ、名前が食べてくれる?」

好き、だなんて予想外のおまけまでついてきて、正直なところドキドキしっぱなしだ。
僕の提案に、名前はびっくりした顔をしながら自身を指した。

「私!?」
「だって元はそういうつもりで持ってきたんだよ」
「そっか、そうだよね。うん、じゃあ選んでもらおうかな」

どれから食べようか迷ってたから助かると笑顔の名前が「ゆっくり選んで」と付け足す。
気遣いはとても嬉しかったけれど、僕自身が食べるならともかく、彼女へ選ぶなら簡単だ。

ひょいと箱から一つ取り出した僕を意外そうに見る名前の反応が予想通りで、ちょっとおもしろい。

「はい」
「ほんとに!?」
「だってどれも名前に食べて欲しいって思ってたんだから迷う必要ないよ。食べる順番が違うだけでしょ?」

ぽっと顔を赤くする名前がぎこちなく頷きながら、僕が差し出した包みを受け取ろうと手を伸ばす。

「待って名前
「え?」
「その前に、さっきの理由教えてくれないかな」
「?」
「…だって、の続き」

何度もまばたきを繰り返していた名前は、僕の言っていることに思い当たったらしい。
それでも言う気にはなってくれなかったのか、僕から包みを奪おうと素早い動きを見せた。

でも、ごめんね。
僕も一応五年生だから、くのたまに負けるわけにはいかないんだ。

「~~~~ッ、不破くん!?」
「どうしても気になるんだ。このままじゃ眠れないかも」

念のために箱も一緒に回収した僕を見ながら「あー」とか「うー」と唸る名前
僕に引く気がないのが伝わったのか、観念したようにわかった、と呟いた。

「迷い癖は、不破くんの悩み事だって…わかってるんだけど…」
(…………僕?)
「……“だって”、不破くんが迷ってる間は、ずっと、一緒…に……いら、れ……ああもうごめん!!」

最後まで言い切る前に、名前が顔を覆う。
自分勝手とか、恥ずかしいとか、言ってるの、聞こえてくるけど……

「…………それ、殺し文句でしょう」

顔を覆っているせいで俯いたままの名前に近づいて、頭にそっと口付けを落とした。

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