カラクリピエロ

エイプリルフール2

※2だけど続きものではありません。
※久々知視点





どういう流れでそうなったかは忘れたが、八左ヱ門との賭けに負けた俺は名前に一つ嘘をつくことになった。
とは言っても、名前はまず俺を疑ったりしないから(それは嬉しいし、彼女の可愛いところでもあるんだけど)、下手な嘘をついたら悲しませるんじゃないかと思って何も言えないまま。
今だって部屋の掃除を手伝いながら、目の前をパタパタ往復してる名前を目で追ってるだけだ。

「なんだか今日の兵助くんは静かだね」
「…そうか?」

一段落ついたのか、お茶にしないかと寄って来た名前が、ふと思いついたように言うのにドキッとする。
ソファに寄りかかってた俺の隣に座りこみ、見透かすようにじっと見つめてくるから……後ろめたさで自然と瞬きが多くなった。

「もしかして具合悪い?このごろ気温が不安定だったし、周りで体調崩した人も多かったし」
「いや、別にそういうわけじゃ」
「兵助くんは結構自分のことに無頓着だからなぁ…」

なにげに失礼なことを言われた気がするけど、伸びてきた手のひらがそっと額に当てられたことで、返そうとした言葉は引っ込んだ。

「熱は…ないね。気持ち悪いとか、お腹痛いとか、そういうの――わっ!?」
「――たった今、悪くなった」

名前を膝に乗せて、そのまま抱きしめる。
戸惑いながら、どう反応しようか迷っていた名前が小さく震えた。

何も言われないのをいいことに、肩口に顔を埋める。と、急にくしゃみが出た。
さっきのなんか比じゃないくらいビクついた名前が俺を押し、再び額に手を当てる。さっき熱はないって確認したばかりなのに、よっぽど焦っているらしい。

「具合悪いなら寝てなくちゃ!風邪はひき始めが肝心っていうし、念のため…」
名前が添い寝してくれればすぐ治るよ」

俺の返事を聞いてなかったのか、救急箱だ薬だとブツブツ言いだす名前
彼女の気を引く意味も込め、肩を抱き寄せて唇を塞ぐ。
小さく漏れる声と、服を握られる感覚。少ししたところで“離せ”のサインが出たけれど、それを無視していたら舌をやわく噛まれた。萎えるどころかぞくりとしたものを感じて煽られてる俺は、ヤバい性癖の持ち主なのか、それだけ名前に溺れてるということなのか…よくわからない。
わかるのは、するのもされるのも名前がいいってことだけだ。

「…………具合、悪くなったって、嘘?」

苦しそうに息を整える彼女が、赤く染まった顔をムッとさせ、いかにも不機嫌そうに呟く。
本当、と返したら訝るように俺を見た。

「うそでしょ」
「…本当だって」

名前が不満げに唇を引き結ぶのを見て、こらえきれずについ笑ってしまった。

「もう!やっぱり嘘!」
「うん…心配させてごめん」
「……それは、私が勝手にしたからいいの。でもなんで嘘ついたの?」
「八との約束もあったけど……充電したくなったから」
「充電?」

疑問符を浮かべる名前に触れるだけのキスをする。
何度かついばむように口づけて、腰を抱きながら首筋へと唇を移動させると咎めるように名を呼ばれた。
言葉代わりに視線を返せば、目を泳がせながら俺の腕を掴む。

「……まだ、お昼前だよ」
「うん。出かける用事あったっけ」
「…ないけど、でも」

名前の声が小さすぎて、その先はまったく聞きとれない。たぶん“恥ずかしい”とか、そんな感じだろうと予想しながら耳朶を食んだ。

「兵助くんっ」
「…名前を充電したいんだよ。させて」
「よ、夜じゃ」
「そんなに待てない」

やり取りの合間に何度か耳を甘噛みしつつ“そういう”意図をにじませて、手のひらを彼女の脇から腰、腿へ移動させる。
声を詰まらせた名前がビクビク震え、俺の胸に額を強く押し付けてくるのを感じながら…もう一度“お願い”の言葉を口にした。

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