カラクリピエロ

13日の金曜日

※久々知視点





夕飯も終わり食休みをしていると、風呂が炊き上がるアナウンスが聞こえた。
名前と顔を見合わせて、彼女が口にする「ジャンケン、」の掛け声に反射的に手を出す。

「やった、私の勝ち!入浴剤入れてもいい?」
「そんなのあったっけ」
「今日三郎がくれたやつ」
「ああ、あれか。いいよ」

白いお風呂になるんだよね、と上機嫌にしながら名前がパタパタ動き回り、風呂に入る準備を進める。

――風呂上りの上気した頬と濡れた髪と、その入浴剤効果で花の匂いにすべすべの肌。

「…楽しみだな」
「兵助くんも?」
「うん。ゆっくり入ってきていいから」
「?」

不思議そうにしながらもありがとう、と礼を言う名前が風呂場に向かう。
彼女が出てくるまでに食器を洗ってしまおうとシンクに立つと、何故か名前が戻ってきた。

「あの…兵助くん…」
「どうした?」

タオルと寝巻きとその他(見えない)を腕に抱えてもじもじする名前が可愛くて、袖を半端にまくったままの腕で抱き寄せる。
もう一度どうしたのかを問いかけると、うん、と頷いてから視線を上げた。

「…あのね、一緒に、入らない?」
「…………は?」

今なんて言ったんだ。
明るいから、恥ずかしい、無理、いや、と否定の言葉は散々聞いてきたが(それもまた俺を煽る要素だけど)、名前の誘い文句は極めて希少で実感が伴わない。

「一緒って、言ったよな?」
「水着着るから!お願い、今日だけ!!」
「いや、水着は着なくていいし今日だけといわず…っていうか、どうしたんだ」

混乱しながらも本音を漏らす自分に、まるで他人事のように感心してしまう。
しかし名前の様子がおかしいことに気付いて彼女と少し距離を開けると、両肩に手を置いて顔を覗き込んだ。

「じぇいそんが…」
「うん!?」

じぇいそん?
突拍子もない単語にさっきとは別の意味で混乱する。

俺が理解しきる前に、名前は更に「今日何日だと思う?」とやや必死になって俺の服を掴んだ。なんで涙目なんだ。かわいいけど。

「えーと、13日だな」
「何曜日?」
「金曜日」

カレンダーを確認して答える。
だから明日は土曜。俺も名前も休みなわけで、今夜はゆっくり――

「兵助くんも一緒に不破くんの話聞いてたでしょ!?」
「雷蔵が何…………あー、ジェイソンてそういうことか」
「だ、だからさっきからそう言ってるのに」

雷蔵が最近見たホラー映画の話だったような気がするけど、確か殺人鬼がどうのこうの。
今日がそうだね、の一言からさりげなく始まったそれは軽く脚色され、雷蔵が情感たっぷりに(しかもやたら上手い)名前に語って聞かせてたっけ。

怖いくせに雷蔵の話に引き込まれて逃げるタイミングを逃した名前は、反応がわかりやすく素直に怖がってくれるから、語り部からしたら最高の聞き役だろう。

「なんであんなに話し方上手いの!?怖いのに聞き入っちゃうってどんな魔法なの、それとも催眠術!?」
「雷蔵はストーリーテラーだからな」

ぽんぽんと彼女の肩に手を置いて、噛み合っているのか怪しい答えを返す。
それが聞こえているのかいないのか、まだ混乱している名前が「あとで恨みメールしてやる」とブツブツ言っていた。

――深夜に届く恨み言か。それはそれで怖そうだ。

名前、風呂は?」
「……い、一緒に、入ってくれる?」
「もちろん」

名前が恨み言を送るなら、俺は感謝のメールでもしておこうか。
雷蔵の語りを思い出して怖がっている名前の額にキスをして、彼女が冷静になる前にと風呂場へ促した。






「…兵助くんに提案があります」
「今更やめるなんて無しだからな。それは俺に対して相当酷い仕打ちだ」
「…………せめて、湯船入るまで待ってほし――ちょ、脱がすのやめて!?」
「どうせ脱ぐんだから一緒」
「一緒じゃ、な…も、兵助くん!」


Date:1/14 6:13
From:兵助
Sub:ありがとう
───────────
13日の金曜日っていい日だな。

-END-



「……? あ、名前からも来た」



Date:1/14 8:47
From:名前
Sub:無題
───────────



-END-



「!? 二人して意味がわからないんだけど!っていうか名前のメール怖いよ!」




雷蔵、朝からついてないの段

Powered by てがろぐ Ver 4.4.0.