カラクリピエロ

朝の風景with久々知


※久々知視点





――ふと目が覚めて、一番最初に見られるのが好きな女の子の顔って、幸せだ。

すやすや心地よさそうに眠る名前を眺めて、寝起きのぼんやりした頭で考える。
このままもう少し寝ようかと彼女を抱き寄せようとした途端、腕からビリビリと伝わってくる痺れに危うく声を出しそうになった。
咄嗟に口を押さえるも、名前がもぞもぞ動いたから起こしてしまったかと反射的に息を止める。
俺の心配は杞憂に終わり、名前は先ほどよりも身を縮めるようにして寝息を再開させた。

名前が動いたことで解放された腕から痺れを逃がしながら、彼女の頬にそっと触れる。ぴくりと震えるまつ毛を見てすぐに手を離す俺はなにがしたいのか。

――起こしたくないけど、名前には触れていたい。

自問して出た答えは単純で、あくまで起こさないように彼女の髪を梳いた。
口元が何か言葉を紡ぎそうに動き、不意にほころぶ。それにしばらく見惚れてからいい事を思いついた。

枕元に置いておいた携帯を開いて――時間は朝の五時少し前だ――カメラを起動させる。
カシャ、とシャッター音が室内に響き、画面の中には名前の寝顔が残ったけれど室内の薄暗さが反映されてやや見づらい。
それが満足できなかった俺は静かにベッドから抜け出してカーテンを開けた。

「ん……」

きゅっと眉根を寄せ、名前が身じろぐ。
さすがに起きるかと思いながらも物音を立てないように様子を見守っていたら、名前の手が何かを探すように彷徨った。
パフ、とシーツが軽く叩かれる。その場所を見て、名前が探している対象に気づいた。

口元が緩むのを自覚しながら近づく。彷徨う手を上から押さえるようにして握れば安心したように笑うから、つい、そのままシャッターを切ってしまった。

「……?」
「おはよう。起こしてごめん」
「はよ……」

ぼんやり目を開けた名前が、まだ半分眠っているような声で答える。
身体を起こして目をこすりながら「なんじ?」と、若干舌ったらずな感じで聞いてきた。
寝起きでまだ頭も舌も上手く動かないんだろう。

「……五時になったばっかりだ」

時計を確認して答える俺に被さる三度目のシャッター音。
何も着てないのはさすがに寒いだろうと俺のパジャマを着せたけど、だぶつき具合やそれに伴うチラリズムは朝から押し倒したくなるほど凶悪だと思った。

(――……これは、誰にも見せられないな)

というか、これまでの三枚はどれも駄目だ。
名前を抱き寄せながら携帯のフォルダを操作していると、「ごじ…」と呟いて素直に凭れかかってきた名前が手元を覗き込んでくる。

「兵助くんは、なにしてるの?」
名前の撮影」
「……………………え?」

ぎょっと目を見開く名前が“聞き間違えた?”って言いたげな顔をするから。笑顔で同じ内容を繰り返した。

「え、な、なにを?なんで!?」
名前の寝顔が可愛かったから」
「ねが……やだやだ、消して!」
「無理」
「兵助くんの携帯でしょ!?」

完全に目が覚めたらしい名前が慌てて俺の携帯に手を伸ばしてくる。
避けようとも思ったけど、俺はあえて名前にそれを渡すことにした。
携帯を握らせ、驚いた顔で何度も瞬くのを満面の笑みで見返しながら、後ろから抱えるようにして名前を抱き締める。

そんな俺の行動よりもデータの方が気になっているらしい名前が、ぎこちなく携帯を操作し始めた。使っているのは同じ機種のはずなのに、手馴れてない感じが少し不思議だ。

「だ、だって、人のって普通触らないから緊張するの!」

自分の写真を探す目的があるからなのか、やや強気な態度を見せる名前
懸命にボタンを押す様子が必死すぎて笑いを誘うけど、それには“可愛い”という感想が多分に含まれている。
俺は名前の返事に相槌をうちながら髪をよけ、あらわになった首に吸い付いた。

「ひぁ!?な、ちょっ、兵助くん!」
名前のフォルダならコレだよ」
「これ?……っていうか私のってどういうこと……」

ブツブツ言いつつ、俺の誘導どおりにまた画面に気を取られる名前にこっそり笑う。
ちらりと見えたロックナンバーを求めるアナウンス。それを見て動きを止める彼女をよそに、俺は行動を再開させた。

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