カラクリピエロ

続・リラクゼーション?


※久々知視点
※「リラクゼーション」の続き




名前の耳掃除と称してやりとりを楽しんだのはいいが、さすがにからかい過ぎたのか、名前は再び手のひらで耳に蓋をしてしまう。
顔は当然前を向いていて、目まで閉じている状態だった。

名前
「やだ。今の久々知くん意地悪だから」

頑なさを滲ませる返答が可愛くて、つい小さく笑いながら宥めるようにそっと頭を撫でる。
パチッと両目が開くのを覗きこむと名前はほんのり頬を染めた。このまま上向かせて口づけたいという衝動を押さえ込んで、やりすぎたことを謝る。
ぐっと言葉に詰まる彼女がますます顔を赤くして、悔しそうに「ずるい」と呟いた。

――確かに、否定はできない。

俺は名前がこういう反応を見せるだろうと思っていたし、俺に弱いところも、すぐに許してくれることも知ってる。
逆に俺も同じくらい名前に弱いんだからお互い様だと思うけど。

身体を起こした名前は軽く後ろ髪を撫でつけたかと思えば、悔しそうな顔のまま俺に手のひらを見せた。

「…………交代、して」
「交代…?って、これか?」

耳かきを揺らすと彼女がはっきりと頷く。
この流れでそう来るとは、全然考えてなかった。
思わず固まっていると、身を乗りだしてきた名前が俺の手に触れる。

ぴくりと勝手に震える手から道具が抜き取られていくのを見つめながら、結局俺が得をしてるだけじゃないのかなと思った。言ったら取り止めになりそうな気がして、口にはしなかったが。

耳掃除の道具を片手にぐっと拳を握り、気合いを入れる名前。それを見てから頭巾を外して彼女の膝に寝転ぶ。
微かに聞こえた戸惑う声と、視界に入る謎の動きを目で追いながら、ゆっくり息を吐いた。柔らかさが心地いい。

「ちょっと、あの、久々知くん?」
「ん?やってくれるんだろ?」
「そ、そのつもりだったけど…まだ心の準備が終わってないのに」

ぶつぶつ呟いている言葉を拾ってはいたけれど、それは聞かなかったことにして目を閉じる。
手持ち無沙汰なのか、躊躇いがちに肩に触れられるのがわかって瞼を上げた。途端、目元を覆われて視界が暗くなる。

「な、なんだ!?」
「だっ、だって、こっち見るから!」
「いや目を開けただけだろ」
「開けちゃだめ」
「…………無理」

だって俺は名前を見ていたい。
だから正直に答えたのに、さっきより目元を覆う手のひらが近づいた気がする。
ふんわりと柔らかく覆うようなそれに反射的に何度か瞬きをしたら、今度はくすぐったいからやめろなんて無茶を言われた。

名前が手を離してくれればそれで済む話だろ。

そう思いながら彼女の手に触れる。
びくりと反応した名前は俺の力に逆らうでもなく、やけにあっさりと手を外してくれた。
――どかした手のひらの向こうに赤い顔の彼女が見える。

名前

呼びかけると気まずそうに目を泳がせる名前は可愛くて、視線の先を追いかけたい衝動に駆られた。

触れたままだった手を軽く引く。
目が合うと、名前はきゅっと唇を引き結び、耳かきを持っていた手で俺の肩を掴む。そのまま押すようにして仰向けだった姿勢を横向きにされた。

「……名前
「も、もう、始めるからそっち向いてて!」
「…じゃあ、終わるまではおとなしくしてる」

俺としてもせっかくの名前からの申し出を堪能したかったから、そう言って力を抜く。
うん、と返ってくる頷きと安心したと思われる雰囲気。

(…………“終わるまで”ってちゃんと言ったからな)

心の中で呟いて、終わった後を考える。
それを邪魔するようにそっと耳に触れられて肩が跳ねた。

「痛かったらすぐ言ってね」
「…うん…」

緊張が伝わってくるのが微笑ましくて、つい笑いそうになってしまう。
彼女の指先がくすぐったいせいもあるなと思いながら、気を紛らわせようと目を閉じた。

「――久々知くん?静かだけど…大丈夫?くすぐったくない?」
「いや……気持ちいいよ」

言いながらゆるく息を吐き出す。下手だなんて言ってたけど、嘘じゃないか。
気を抜いたら寝てしまいそうな気がしたが、ふと動きが止まっているのに気づいて名前を呼んだ。

「あ、ごめん」
「どうした?」
「んー…久々知くんが言うとドキッとするなーと思って」
「なにを?」
「……“気持ちいい”って」

僅かな躊躇いのあとに聞こえた返事に一瞬思考が止まる。
誤魔化すように動きを再開させる名前が「気にしないで」と焦った調子で付け足すけど、もう遅い。

名前
「………………なあに?」
「そろそろ終わりでいいんじゃないか?」
「きゃ!?き、急に起きたら危ないよ!」

俺が上体を起こすのと同時にサッと両手を挙げた名前を見れば、焦りと心配とが混じった顔をしている。
腕を掴んで腰を抱き寄せると簡単に俺の懐に納まって、戸惑いがちに見上げてきた。

「まだ、片方残って――」
「かなり気持ちよかったから、もう充分だよ」
「~~~~ッ、久々知くん、それわざとでしょ」
「でも嘘じゃないぞ」

笑いながら返す俺に、名前は唸りながら俺の肩に額をくっつける。
彼女を強く抱きしめて、赤く染まる耳朶に軽く口づけを落とした。





「――俺も名前が言ってるの聞きたい」
「なっ、何もないのに言えないよ」
「……ふーん。じゃあ気持ちよくなれば言うんだな?」
「……意地でも言いたくない雰囲気」
「どうして?」
「やっぱり今日意地悪!」

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