カラクリピエロ

「名前、豆腐食べないか？」

顔を見合わせた途端、満面の笑みで言われて何度も瞬く。
告げられた内容を反芻してとりあえず頷いたら、久々知くんの頬がぱっと色づいた。
可愛い…なんて思ったら嫌がるだろうか。

（…言わなければバレない、うん）
「俺が作ったんだけど、ちょっと作りすぎてさ。火薬委員だけじゃ食べきれないから」

にこにこしながら食堂の方へ足を進める久々知くんはやっぱり可愛くて、くすりと笑いが漏れてしまう。
気づいた久々知くんが不思議そうに首を傾げるから、「楽しみ」と返して嬉しそうな笑顔を貰った。

「……いっぱいあるね」
「うん。学園長先生と木下先生にも差し入れたんだけどな」
「みんなには？」
「拒否された。名前はどれくらい食べる？」

まさか豆腐でそんな質問をされるなんて思ってなかった。
一丁？二丁？
質問を重ねる久々知くんは私が答える前に受け皿に豆腐を乗せる。
調理前状態の豆腐が二丁、どんと目の前に置かれてしまった。そっと薬味が添えられたけれど、さすがにこれは食べきれない。

「あの、」
「ん？」

向かい側に座るにっこり笑顔の久々知くんを見て胸がキュンとする。
食べて欲しいって気持ちが伝わってきて、私は箸を握りなおした。

「いただきます」
「どうぞ」
「…おいしい」
「そうか！」

口元に手を添えて感想を述べる私に、さっきよりも嬉しそうな笑顔を振りまく久々知くん。
それを見たら胸がいっぱいになって食欲が低下してしまったけど、せめて一丁は食べきりたい。美味しいのも本当だし。
でも素のままは少し厳しいのも事実――

どうしようと考えながら箸を進めていたら、久々知くんがくすりと笑う。
意図を探るように首を傾げると、久々知くんは私の隣に移動して一丁と半分くらい残っていた豆腐の皿を自分の方に寄せた。

「好きなだけ食べてくれたら、それでいいんだよ」
「私、別に無理してないよ」

そう言ったら眉間にトンと指を置かれて、短く「皺」と言われてしまった。
反射的に手をやって隠しながら反論を試みる。

「これは、考え事してて」
「名前の癖だもんな。食べきれないんだろう？」
「……美味しいって言ったのは、嘘じゃないよ」
「わかってるよ」

笑いながら久々知くんが私の手から箸を取り上げて、半端に残っていた豆腐をあっという間にたいらげてしまう。
綺麗になった皿を凝視していると「食べたかった？」と問いかけられて思わず頷いてしまった。

「夕飯に出るからさ」
「……え」
「食堂のおばちゃんが、余ったやつは味噌汁にしてくれるって言ってくれたんだ」
「え、それ、私食べてよかったの？」
「名前に食べて欲しかったから誘ったんだよ」
「…ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」

微笑む久々知くんが立ち上がって厨房へ行こうとするのを引き止める。
改めてお礼を言うと、久々知くんは何度か目をパチパチさせて目元をほころばせた。





「――で、あいつらは何をしてるんだ？」
「夕飯の仕込みじゃないの」
「……あはは」
「雷蔵、はっきり言っていいんだぜ。“いちゃいちゃしてるようにしか見えない”って」
「僕は夕飯が豆腐尽くしにならなければそれでいいよ」
「手伝おうかと思ったんだけど、やっぱ邪魔かな」
「いや、ここは割り込むべきだ！夕飯に変な成分を混ぜられてはたまらんからな」
「なんでわざわざめんどくせーことしようとすんだよ」
「じゃあ三郎だけで――」
「兵助、名前！私たちが手伝いに来てやったぞ！」