きっかけなんてそんなもの
※久々知視点
手を伸ばし、そっと頬に触れる。名前は小さく身じろいで、ゆっくり俺を見返した。
軽く笑って見せると少し焦ったように視線を泳がせ、顔をそらし、自身の手の甲を口元に当てる。
その頬が色づいて見えるのは俺の気のせいじゃない。
「あ、の…久々知、くん?」
「ん?」
「い、ま、って」
「隠れ鬼の最中」
「そうだよね!?」
パッとこっちを向いた名前の口元に指をあてる。
彼女の言うとおり、今は“暇だ、退屈だ”とうるさい友人と一緒に隠れ鬼で遊んでいる。
今の鬼は誰だったか――ともかく俺は名前を伴って、慣れ親しんだ焔硝蔵の方まで足を伸ばしていた。
ついさっきまでは俺も静かに隠れていたけれど、好きな女の子が隣で楽しそうに笑いながら、内緒話のために距離を詰めて小声で話し出すなんて…気が高ぶっても仕方ない。
「見つかっちゃうよ…」
「見つからなければいいんだよ」
そわそわする名前が、すぐ傍に生えている木の葉をちぎる。
ガサガサ音を立ててしまうそれをやめさせようと手を取ると、びくっと肩が跳ねた。
「…………期待してる?」
「ち!ちが、ちがうよ、これは、見つかりそうだからで!」
「動揺しすぎ」
「ほんとに」
「いいよ、俺だって触りたいし」
「さ!?だ、だから!違うの!」
かあ、と更に赤くなる彼女の顔を見て勝手に口の端が上がる。
距離を詰めながら膝をつけば、名前がその分後ろに下がった。
少しの間無言で向き合う。
ふっと笑った俺に、名前もまたにこりと笑みを見せた。
「なんで逃げるんだ」
「きゃあ!?」
「しーっ」
素早く名前の腕を捕まえて引き寄せる。
その際上がった悲鳴は名前を腕の中に収めつつ、空いていた手で塞いだ。
後ろから抱える姿勢になった現状で、口を塞いでいた手を外しながら抱きしめる力を強くする。
がっちり俺の装束の袖辺りを掴み、身を縮める彼女が可愛い。
「久々知くんが、変なこと、言うから」
「変なこと?」
「さ、触りたい、とか」
(あ)
そっと首を回して精一杯俺を睨む名前と目があった瞬間、駄目だった。
元から抑える気があったのか、それはちょっとわからないけれど。
触れた唇は柔らかい。
軽く離すと小刻みに震えているのがわかって、それを押さえるようにもう一度口づける。
「ん、」
鼻から抜けるような声が耳朶をくすぐった。
ああやばいな、と内心ではわかっているのに止められない。
何度も角度を変えて、段々深くなる口づけを味わいながら、そっと目を開けた。
名前は真っ赤な顔で生理的な涙を浮かべ、荒い呼吸を繰り返す。
「く、くち、くん」
そうやって呼ぶのは反則だろうと思う。
でもここは外だし、一応遊戯の最中だしと言い聞かせ、上がる体温を宥めるべく彼女の濡れた唇を指でぬぐった。
(俺は、馬鹿か…)
触れた感触と自分の行為は明らかに逆効果になっている。
名前は力が抜けたのか、くたりと寄りかかってきているのも(可愛いけれど)拍車をかけていた。
早く見つけられた方がいいのか、それともこのまま抜けようか。
名前の次の行動を見てから決めようと判断し、彼女の髪をそっと撫でた。
プチリク消化。
久々知優勢で、ちょっと強気な押せ押せ久々知、でした。畳む
1372文字 / 2011.05.07up
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