カラクリピエロ

思春期ですから。


※尾浜視点




名前って可愛いよな」
「んー…ん!?」

ぼそっと呟かれた内容にぎょっとして、思わず顔をあげた。
おれたちは出された課題を消化している最中で、ついさっきまで兵助もおれと同じ問題を解き、一つの問いに対する回答の多さだとか解説だとか、そういう真面目な話をしていたような気がするんだけど。

兵助を見れば、ぼんやり外に顔を向けている。
大きく開かれた戸口の向こうでは名前が寛いでいて、時々通りがかる下級生と話をしているようだった。

名前は邪魔したくないからと帰ろうとしていたけれど、それを引きとめたのは目の前の男だ。
即効で終わらせるから、と宣言したのも。

「…終わったの?」
「うん」

それならさっさと行ってあげればいいのに。
まさかおれが終わるの待ってるわけじゃないだろうし。

「…………それで?名前がなに」
「最近ムラっとするんだ」
「え、それ、おれ聞かないとだめ!?」

仕方なく続きを促したおれは、すぐにそれを後悔した。
はぁ、と盛大にため息をつきながらも兵助は名前から視線を外さない。
ため息つきたいのはおれだよ。っていうか見過ぎ。名前に穴でも開ける気なのかって言いたくなる。

「抱きしめたときの柔らかさとか反応とか、なんかもう…たまらない」
「待った待った待った!!あのさ兵助、そういうの言われたらおれ想像しちゃうから」
「するな」
「じゃあ今すぐやめろ」

半眼で兵助を睨みつけたけど、兵助は相変わらず名前を見たままだから効果はない。
わざと聞こえるようにため息をついて、自分の課題を再開させる。
集中してれば兵助の戯言なんてただの雑音だ。がんばれおれ。

「…この前押し倒されて」
「え!?名前が!?」
「うん、まぁ事故だったんだけど、あれはやばかった。俺、なんか、理性飛びそうになった」
「頑張ったね兵助……って違う!なに、聞かせたいの?」

思い出したのか口元を押さえる兵助に、うっかり相槌を打っていることに気づいて机をたたく。
兵助は久々におれの方を見て憮然とした表情を作った。

「溜めこんでるとかえってよくないって言われたんだ」
「誰に」
「善法寺先輩」

保健委員が言うとやけに生々しい気がする。
ついひきつった笑いを浮かべてしまったおれは悪くないと思う。
この生真面目すぎる友人に何て言ったらいいんだろう。

「軽いし、小さいし、いい匂いするし、なんなんだろうあれ」
「あれって……女の子だしね…」
「しかも赤い顔で息切れしながら呼ばれると」
「へーーーすけぇえ!!!!」
「なんだ」
「なんだじゃない!想像するなって言うならさせるなよ!」

確かにそのシチュエーションじゃムラっとするのもわかるけど。

「休憩?私も混じっていい?」
「うわっ」
「あ、ごめん、邪魔?」
「全然。俺は終わったところ」

おれが大声を出し過ぎたのか、名前がひょいと顔をだす。
話題のせいでうっかり驚いたおれをよそに、兵助は爽やかな笑みを浮かべながら腰を上げた。
さりげなく名前の背を押して部屋から出ようとするのを引きとめる。

「兵助、いきなり襲ったりするなよ?」
「……勘右衛門、俺をなんだと思ってるんだ」
「お前がそういう話をするからだろ!」
「ちゃんと我慢してるって言ったよな?」

はっきりそうとは言ってなかったと思うけどね。
ごにょごにょ話をするおれたちに名前が不思議そうに首をかしげる。
気づいた兵助は短く「大丈夫だ」と告げておれとの会話を打ち切った。

「もういいの?」
「うん。待たせてごめん、試したいことあるんだったな」
「そうそう。授業でドキッとする仕草っていうのを教えてもらったんだけど、やってみていい?」

彼女自身が苦手で『相手に効果なし』と自分に評価を下しているから、そういう風に言えちゃうんだろうけど。
感想を聞かせてほしい、とにこやかに言う名前は酷だなぁと見ている方としては思う。

「……………少し待ってもらってもいいか」
「うん」

ぎこちない動きをしだした兵助に、心の中でささやかなエールを送った。





名前、ちなみにどんなの?あ、やらなくていい、説明だけで」
「えーと…笑顔、見つめる、髪を掻き上げる、」
「待った」
「早いよ兵助!っていうか結構あるね」
「うん、ドキッとする?」
「効果覿面て感じ」





プチリク消化。
むっつりすぎて危ない久々知、でした。むっつりかなこれ
畳む


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