カラクリピエロ

縁側にて

※久々知視点




「久々知くん、一緒にお団子食べよ!」

学園の休日。宿題を終わらせて何をしようかと勘右衛門と話をしていたら、廊下側から明るい声で呼びかけられた。
それに応じて戸を開くと、手に盆を乗せた笑顔の名前が立っている。

「今暇?」
「ああ、大丈夫だけど…聞く順番違わないか?」
「駄目だったら出直すだけだもん」

噴出しそうになりながら答えたら、そう言って笑うから我慢していたのに結局つられてしまった。

名前ー、おれもいるんだけどなー」
「ちゃんと勘右衛門の分も持ってきたよ?」
「……いいけどね。ついでにそう言ってくれて嬉しいんだけど、おれこれから用事あるから出かけてくるね。夕飯までには戻るから」

呆れ混じりに言ったかと思えば俺の方に向き直り、満面の笑みを浮かべる勘右衛門に驚く。
つい先ほどまで暇だって話をしてたのに。

「あれ、そうなの?竹谷たちはどうかな」
「あー、残念。あの三人も用事あるって言ってた」
「勘右衛門それ――」

嘘だろ、と俺が最後まで言う前に、勘右衛門は手を振って部屋を後にした。
その背に向かって「とっておくから」と声をかけた名前が残念そうに小さく溜息をつく。
それを見ていたくなくて、励ますように肩をたたいた。

「俺があいつらの分もつきあうよ。中でいいか?」
「……そ、そっか、ふ、二人……」
名前?」
「ううん、なんでもない。久々知くん、こっちで食べない?今日天気いいから気持ちいいんだよ」

俯いて何かを呟いていた名前はそのまま軽く首を振り、俺に廊下を示した。庭というか競合地帯というか陽が差し込む縁側。
了承して名前の隣に腰を落ち着ける。確かに天気はいいし昼の陽気が心地いい。

「久々知くん勉強してた?」
「宿題が出てたからな。名前は……甘味屋か?」
「うん、友達と一緒にね。お店で食べて美味しかったから、みんなとも食べたくなっていっぱい買っちゃった――はい、熱いから気をつけてね」
「あ、ありがとう」

手渡された湯のみに礼を返しながら、名前との間に置いてある包みに目を落とす。
名前の言う通り“いっぱい”の団子が山盛り状態で乗っていた。

「――やっぱり、俺だけって物足りないんじゃないか?」
「そんなことないよ。だって久々知くん誘えなかったら出直すつもりだったんだから」
「そ、そうか」

にこにこしながらそんなことを言う名前に、どう返したらいいかわからなくなる。結局ぎこちない相槌でもって返してしまった。
名前はそれを気にした様子もなく俺に団子を勧めてくれる。促されるまま一つ手に取ると、落ち着かない様子で俺をちら見するから妙に緊張してしまった。

「ど、どう?」
「うん、美味い」
「よかった!」
名前は食べないのか?」
「食べる食べる。出来たてはねー、もっと美味しいんだよ。一年生にしんべヱって子がいるでしょ――」

立花先輩に懐いているおかげか自分にも親しげに話しかけてくれる子で、食べ物のお店に詳しくて。
そんな風に流れていく話の内容に耳を傾ける。
笑顔で嬉しそうに、楽しそうに。たまに手振りを交えて話す名前は見ていて飽きない。聞き役に徹して相槌を打つしかできない俺に文句を言ったりもしない。
それに、名前の声は耳障りが良いというのか…ずっと聞いていたい気にさせる。

「――あれ、久々知くん眠い?」

声をかけられてハッとした。
首を傾げる名前が急に目に入って心臓がドクリと鳴る。いつの間にか目を瞑っていたらしい。この陽気と温かい茶と美味しい団子と名前の声に、眠気が誘発されたのかもしれない。
言われたおかげで自覚したせいか、一気に眠気が押し寄せてくる。

「……ごめん、名前の話は聞きたいんだけど、」
「お昼寝日和だもんね」

くすくす笑いを溢す名前は微笑んだまま「寝てもいいよ」と言った。
今は、その言葉に甘えさせてもらおうと思う。

「あ、私戻るから久々知くんは部屋、で……えっ!?」
「悪い、ちょっとだけ」

まだ大量に団子が乗っている包みを後ろに追いやって距離を詰めると、名前に軽く寄りかかった。触れた場所が暖かい。
名前が何か言っているような気がしたけど、それは起きたあと聞かせてもらうことにした。

「へ、部屋、で……って、言ったのに……」





「…………そこでほんとに寝るか普通」
「八左ヱ門でさえこう言うのに兵助ときたら…」
「勘右衛門、静かにしないと見つかるぞ。というか団子…あの包みの店は美味いって評判で並ばないと買えないのに…お預けだと!?」
「三郎詳しいね。っていうか名前固まっちゃってるけど大丈夫かな、助けに行ったほうがよくない?」
「それこそ野暮だよ雷蔵。なんのためにおれが二人きりにしたと思ってるの」
「だからって覗きはどうよ…」
「今更何言ってんのさ、八が一番乗り気だったくせに」
「縁側で茶飲んで談笑して昼寝って、こんな年季入った夫婦みたいなやり取り見に来たんじゃねーよ…」

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