カラクリピエロ

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※鉢屋視点




恒例の夕飯時。いつの間にか示し合わせたように全員揃うまで食べないという雰囲気により、私は不本意ながら名前と二人向かい合わせに座っていた。

「三郎の素顔ってどんなの?」
「超絶美男子」

退屈そうに頬杖をつく名前にされた質問は今まで何度もされたことのあるもので、内心またかと思いながら返事をした。同級生、年上年下くのたま教師、誰に対しても――返答の内容は違えど――大雑把で適当、いい加減だ。

「へー」
「……おい」
「ん?」
「…………お前実は興味ないだろ」

私の返答と同じか、それ以上に“どうでもいい”という雰囲気で返された返事に呆れて言うと、名前は悪びれた様子もなく「バレた」と言いながら笑った。

「ここは見せてと頼み込むところじゃないのか」
「ぶっちゃけると久々知くんに変装してなければ三郎がどんな顔でいてもどうでもいいっていうか…あと一、二年生もやめて欲しいかな」

…ぶっちゃけすぎだろ。
少しは私に気を遣って言葉を選ぶとかしないのか。

そのまま疑問をぶつけたら、名前はきょとんとした顔で「三郎ってそんなに繊細だったっけ?」と、これまたサラリと言った。
このぞんざいとも言える返しは兵助や雷蔵に対しては絶対しない。猫を被っているのかと最初は疑ったものだが、あいつらの前でも平気でこういう物言いをするから、どうやらこれが名前の素らしい。

名前の脳内にある分類表は兵助とその他しかないのか」
「失礼な……久々知くん、忍たまの後輩、くのたま、その他だよ!」
「………………大して変わらないじゃないか」
「その思いっきり馬鹿にした顔やめてくれる?」
「お前の反論が馬鹿みたいなんだから仕方ない」
「むっかっつっく!」

一文字ごとに強調するように区切って言いながら、テーブルをたたく。立っていたら地団駄でも踏んでいただろうか。名前は沸点が低い。それをわかった上で煽るのはこの単純な反応が見てて面白いからだが、私も相当物好きだなと自嘲した。

そんな話をした後、たまたま『は組』前の廊下で名前を見かけた。
どうせまた兵助のところにでも行くんだろうと思っていたのに、そこから動く様子が無い。通りすがりの同級生の顔を借りてさりげなく近づくと『は組』の生徒と話をしているようだった。

名前が浮かべている笑みはくのたまとして接するときに使うものだ。
にっこりと綺麗な笑みを貼り付けて僅かに首を傾げ、相手の油断を誘う。

何の話をしているのかわからなかったが、関係ないとばかりに名前の肩をポンとたたいた。
瞬間、笑顔を引っ込めて思い切り不審な目を向けてくる名前はあからさまに苛立っているようだった。ついでに私にも気づいていない。

「…なにか?」
苗字さん、『ろ組』の鉢屋が呼んでるよ」

言うと、目を見開いたあとホッと顔を緩ませて微笑んだ。

「ありがとう」

……これには私が驚いた。もちろん表面に出すなんてことはしなかったけど。
名前は再びくのたまの笑顔で『は組』の生徒に向き直り、「そういうことですから」と平坦な声で言って私の袖を軽く引いた。
それを合図にそこから離れた私たちは『ろ組』前辺りで止まる。
大きく息を吐き出した名前が私を見上げ、口を開いた。

「助かったー…、もうね、くのたま紹介しろってしつこいのなんの」
「攻撃でもしたらよかっただろうに」
「私が忍たま五年複数を相手にして勝てると思う?」
「無理だな」
「でしょ?でももうちょっと遅かったらもっぱん投げてたかも」

相変わらず変装したままの私に、名前は普段と変わらぬ調子で話しかけてくる。
さらりと混ぜ込まれた攻撃手段に、私が助けたのは『は組』じゃないかという気がしてしまった。

「お前そんな凶器を持ち歩いてるのか」
「護身用だよ!ともかくありがとう三郎」
「……偶然目に入ったからな。いつわかった?」
「話しかけられたときかな。やっぱうまいね変装、それ誰?」
「同級生のお友達さ」
「ふーん」

おざなりな返事。
やはりどうでもいいといった雰囲気に、思わず笑ってしまった。

「なんで笑うの」
「気にするな。一応私たちの枠もあるんだな」
「なんの話?」
「分類表」
「は?」
「さしずめ“友人”といったところか」

おもいきり訝しげな表情をつくる名前は用事を思い出したのか、それどころじゃないと溢して『い組』に向かって早足で歩き出した。
私は頭の後ろで手を組みながらその後をのんびりとついていく。

桃色の忍装束を視界に入れながら、名前はいつのまにかくのたまから友人に分類が変化してしまったなと思った。






「びっくりした、三郎か~」
「なんだ雷蔵」
「いやてっきり名前に新しい友達ができたのかと」
「…………」
「いいことだけど、実際できたらちょっと嫌だよね」
「私は何も言ってないぞ」
「友達の中では一番がいいっていうのかな。ねぇ八?」
「まーなぁ…そういや俺も若干モヤっとしたの思い出したわ」
「え、初耳」
「だから今思い出したんだって」
「お前ら話を聞け!私は別になぁ、」
「はいはい、嫌いじゃないんでしょ」

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