カラクリピエロ

縁日にいきましょう(1)

※久々知視点





町まで出かけた際、近くの神社で縁日が開かれるらしいという噂を聞いて、それに名前を誘ってみた。
名前は数回瞬いた後、ほんのり頬を染めて「嬉しい」と言いながら顔をほころばせるから。俺まで嬉しくなって一緒に笑った。

+++

――カロン、と足元で耳慣れない音が鳴る。

俺は普段着で出かけるつもりだったのに、勘右衛門ばかりか雷蔵にまで“着ていけ”と浴衣を勧められ(あれはもう強制に近い)こうして慣れない格好をしているわけだけど…………落ち着かない。

思っていたよりも早く待ち合わせ場所に到着してしまったから(どれだけ浮かれてるのかと笑いたくなるが)、下駄で地面を踏みながら木陰へ移動した。

腕を組んで目を閉じる。
夕暮れに差し掛かっているからか、日中よりはいくらか涼しい。

(…………?)

じっと見られているのを感じて顔を上げたら、十歩ほど離れたところに名前がいた。
どうして寄ってこないのかとか、いつもなら声をかけてくれるのにとか――そんな問いかけをしようとしたのに。
少しずつ近づいてくる名前から目が離せなくて、妙に息苦しい。

普段着より華やかさが増した着物――浴衣に、結い上げられた髪。制服のときとは違った纏められ方をされて、キラキラした飾りがついてる。柔らかそうな唇はほんのり色づいてなんだか美味しそうだと――

「ごめん、ね。待たせちゃった」
「ッ、俺、が…、勝手に、早く来ただけだから」

名前も早いくらいだと思いながら、咄嗟に自分の口元を押さえる。
深呼吸して心臓を落ちつかせつつ、改めて名前を見下ろした。

「…綺麗だな」
「あ、浴衣?家から送られてきたんだよ。柄が可愛いなって私も」
「いや…名前が。綺麗だし、可愛い。よく似合ってるよ」
「――、」

にこにこしていた名前は動きを止めて一気に顔を赤くすると、少しずつ俯いてしまう。
小さな声で、途切れがちに「ありがとう」とお礼を言われて急に照れくさくなってしまった。

「い、行くか、そろそろ」
「そ…だね。久々知くんはもう外出届だした?」
「まだ。小松田さんいるかな」

事務室を覗くと小松田さんはすぐに顔をだし、俺たちを見比べながら外出届を受け取る。

「今日は出かける子が多いから、学園は静かだねぇ」
「みんなもお祭りでしょうか」
「だと思うよー?出店とかバイトとか課題とか…うん、特にきり丸くんは張り切ってたなぁ」

名前の問いに、外出届(他の生徒が出した分だろう)をパラパラ見て答える小松田さん。
向こうで鉢合わせる可能性が高そうだな、と名前をチラ見して――僅かにあいている距離に違和感を持った。

「なんでそんなに離れてるんだ?」
「…全身が見たくて」
「ん?」

すぐに寄って来た名前と二人、小松田さんに見送られながら学園の門をくぐる。
少し歩いたところで、俺が聞こうとしていたことを名前の方から答えてくれた。

「久々知くんの浴衣、見たかったの」
「俺のって……寝巻きと大して変わらないだろ」
「全然違うよ!」

手のひらを握りしめて力説する名前に気圧されて数回瞬くと、ハッとした彼女が誤魔化すように下駄を鳴らす。

「実はね、見られたらいいなーって、ちょっと期待してたんだ。……叶っちゃった」

照れくさそうに言いながら、俺を見上げて嬉しそうに笑う名前を見て心臓がドクリと音を立てた。
勘右衛門と雷蔵の“着ていけ”に流されただけだけど、こうまで喜んでくれるなら着てきてよかったと思った。

「でもかっこよすぎてずるい…」
「ん!?」

ぼそりと呟かれた言葉をどう捉えていいのかわからなくて(喜んでいいんだろうか)見返すと、名前はぎゅうと胸元で手を握りしめた後、何か言いたげに口を開いた。
先を待っていると徐々に名前の顔が赤くなり、なぜか距離があいていく。

名前がじりじり後ずさっているせいかと俺から近づいて彼女の手を捕まえると、緩く握り返された。

さすがに暑いかなと遠慮していただけに、なんだか嬉しくて頬が緩む。

「…こ、このまま、繋いでてもいい?」
「――うん。その代わり、離せって言われても聞かないからな」

繋いだ手を強く握るとパッと顔を明るくして笑う名前が可愛い。
上機嫌ににこにこしている彼女を横目に、誰にも見せたくないなという考えが浮かんで……すぐに沈めた。

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