カラクリピエロ

火薬委員会(14)



譲歩の末になんとか話し合いの日時は連絡してもらえることになったものの、立花先輩との舌戦で大分精神力を使ってしまった。

「それならまぁ、よかろう」

この言葉を引き出すのにかなり粘った気がする。
おおー、と上がる歓声に驚けば、いつの間にかギャラリーと化していた四人から拍手があがった。

「おめでとう名前

にこにこ笑顔で不破くんが言うから、思わずありがとうって返す。
なんだか照れくさくて頬を掻くと茶々入れするように「たかが日時だけどな」と三郎が口を挟んだ。

たかがと言うけれど、日時がわかれば対策だって立てようもあるというものだ。
もしかしたら当日連絡かもしれないけど、それでも忍び込む機会が得られる。
私ではバレる可能性があっても、この四人ならきっとなんとかしてくれる。
そう思いながら笑顔で四人を見たら、あからさまに身構えられてムッとした。

「いや、だって、こえーよ!」
「トラウマが刺激されるよねその笑顔は」

とりあえずその発言を無視して立花先輩に向き直る。
先輩は訳知り顔でふっと笑った後、藤内を促して立ち上がった。

「日時は追って知らせると久々知に伝えておけ」
「私経由ですよ!」
「わかっている。…さて、行こうか藤内。これから忙しいぞ」
「はい、頑張ります!」

ぐっと拳を握る藤内に、頑張らなくていいからと言いそうになったものの、そのまま口から出したら逆効果な気がして思いとどまった。
多分、このときの私の判断は正しかったんじゃないかと思う。

二人を見送ってから久々知くんの様子を伺うと、まだ善法寺先輩と膝をつき合わせていた。
なんの話をしているのかわからないけど、久々知くんの表情が硬くて少し心配になる。

名前、お前俺たち使う気なんだろ」
「兵助のことだから心配しなくても大丈夫だとは思うけどね」
「できるだけ協力してあげるよ?無茶なことじゃなければ、だけどさ」
「ありがとう」

思考を引き戻されて、私はそのまま出入口付近にいた四人のそばに座った。

「あ、三郎にはどっちみち拒否権ないからね」
「は!?」

流れを静観する気だったのか、薄く笑いを浮かべて黙っていた三郎の表情が崩れた。
これは珍しい。私が、三郎を動揺させるなんてすごく珍しい。
勝手ににやける顔をそのままに、ピッと指を立てる。

「――お助け鉢屋、今が使いどころだと思わない?」
「…………おま、」
「委員会限定って言われて無いし、三郎なら久々知くんのために、作法委員会の罠を掻い潜って且つ立花先輩に見つからずに見守ってくれるでしょ?」

顔を引きつらせながらも口元には笑みを作る三郎に感心する。
私から視線を逸らして顎に手をやった三郎は、少し考えてからいつものニヤリ笑いを浮かべた。

「…まぁ、確かに立花先輩率いる作法に挑むのはおもしろそうだ。雷蔵達も手伝ってくれるんだろう?友のためだものなぁ」

妙に“友のため”を強調する三郎に、他の三人が乾いた笑いを溢す。
やっぱりそうなるかと溢す竹谷に、見守るだけならマシだよねと不破くんの声が続いた。

名前、怪我は大丈夫なの?」
「ん?うん、変に動かなければ大丈夫みたい」

薬が効いたのか、それとも心配事が減ったからか背中の痛みは大分落ち着いてる。
ちゃんと今日の委員会にも出るよ、と張り切って言えば勘右衛門は困ったように笑った。

「…………どうしても出るの?」
「駄目?あ、今日は勘右衛門が担当?」
「そうだけど、それはどうでもいいんだよ」

勘右衛門(というか学級委員長委員会)にとっては一度はなくなった仕事がまた戻ってきたようなものか。たしかに面倒くさい、と勝手に判断したけれど、やけにあっさりと否定されて驚いた。

「兵助はきっと反対するよ?」
「……わ、私が、心配、だから…とか…?」
「当たり前じゃん……名前、ここ喜ぶところじゃないから」

呆れ声で言う勘右衛門の言いたい事はわかったけど(反対されても出るのか聞きたいんだろう)、久々知くんに反対されるのも悪くない。
実際にされたわけじゃないのに、勘右衛門が言うと信憑性が高い気がして、先回りで喜んでしまった。

「勘右衛門やめとけって。こいつは一度決めたら聞きゃしないんだから。説得なら兵助に任せようぜ」
「……それもそうか」
「もうお昼だね」
「雷蔵、さっさと定食決めておけよ」
「わかってるよ」

竹谷と勘右衛門のやりとりは若干失礼じゃないかと思ったけれど、すぐに不破くんの一言の方に気をとられてしまった。そういえばお腹空いた。
空腹を訴えるお腹に片手を当てると、丁度頭上から「山本シナ先生が空いた時間に来いとさ」と三郎の声が降ってきた。

「まったく名前のくせに私を使いっぱしりの伝言係にするとは」
「…………お、おこられる?」
「私が知るか」
「ちょっと、待って!怒ってたかどうかだけでも!」
「うわっ、こら、袴を掴むな!」

退室しようとした三郎を慌てて引き止める。
すっかり頭から抜け落ちていたけど、私は居眠りの罰で授業の準備に向かっていたんだった。なのに達成できないまま怪我までして医務室の住人になっている現状。

優しいおばあさん姿を一転させて、綺麗で凛々しい女性姿になったシナ先生が「苗字さん」と笑顔で呼ぶのが目に浮かぶ。こわい。

「おい名前!怒ってなかったから離せ!」
「ほんと?」
「むしろ感心してたなあれは」

ならば早々に、感心が怒りに変わってしまう前に会いにいかなかければ。
ひとまずの礼を言って三郎を解放すると、それを待っていたのか勘右衛門が久々知くんへの伝言を残した。
久々知くんはまだ善法寺先輩と話し中なんだろうか。先輩ばっかりずるい。

それを確かめる間に四人は「先に食堂行ってるね」と残して去ってしまい、静かになった室内には善法寺先輩が道具を片付ける音だけが響いていた。

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