カラクリピエロ

火薬委員会(3)



「落とし穴とか、水鉄砲とか、虫やネズミをけしかけたり…そういうこと僕にしないんですか!」
「――三郎次、ちょっと落ち着こう?」

三郎次の真顔の主張は、まるでそれをして欲しいように聞こえる。
あなたが言うなら喜んで、なんて趣味はもちろん無い。

「……苗字、そういう濃い遊びは別んとこでやってくれるか?」
「わあああ誤解です!!…って、食満先輩!?」

うちのやつらに悪影響が、とぶつぶつ言い出すのは用具委員会委員長。
いつの間にか目的地についていたらしい。
食満先輩は私の傍にいた三郎次を視界に入れると、私と三郎次を見比べた。

「そっちのは火薬の二年だな……お前、まさか作法委員だけでは飽き足らず別の委員会の後輩まで……」
「ち、違…………、先輩、わかってて言ってますね!?」

明らかにからかい混じりの色に気づいて恨みがましく言うと、食満先輩は軽快に笑い声を上げた。

「仙蔵の影響で変にねじくれてなくてなによりだ」
「……三郎次、早く道具借りて戻ろうか」
「待て待て、用具の持ち出しならこっちの紙に記入してってくれ」

差し出された用紙に、先ほど三郎次と確認した用具と個数を記入する。

それにしても三郎次はくのたまを化け狐か何かと思ってるんじゃないだろうか。それだけくのたまの餌食になってきたということかもしれないけど、久々知くんの“大丈夫”効果がなかったのはちょっとショックかもしれない。

「食満先輩、書き終わりました。勝手に持っていきますよ?」
「おお、ちゃんと壊さず返しにこい。……悪いな池田、俺もよくは知らねぇんだ」
「…いえ、ありがとうございました」
「? 三郎次、いくよー」

なにやら食満先輩と話をしていた三郎次は、私の言葉にただ頷いて素直についてくる。どうしたんだろう。くのたまへの誤解をやわらげようとしたものの、声をかけづらい。

苗字先輩、そっち僕が持ちます」
「…重いよ?」
「見ればわかりますよ、別に苗字先輩のためじゃありません。早く戻らないと掃除が進まないからです」

そう言ってさっさと荷物を持ってしまった三郎次は、私に次の言葉を言わせる前に歩き出していた。

「さ、三郎次!」
「……苗字先輩、久々知先輩のことどう思ってますか?」
「どうって…………好き、です」

思わず持っていた掃除用具をぎゅうっと強く抱え込む。
今、絶対顔赤いだろうなと思った。
――というか聞かれたから馬鹿正直に答えてしまったけれど、駄々漏れすぎやしないだろうか。

私の返答を聞いた三郎次はカアッと顔を赤く染めた。

「………………あれ?」
「そ、そんなこと聞いてません!」
「ええー!?」

じゃあなんて答えれば!?
三郎次は私から視線を逸らし、赤い顔のまま指が白くなるほど箒を握り締める。

「僕は、久々知先輩が、騙されたりしてないか知りたかっただけです!」
「ああそういう…………いや、やっぱりさっきのじゃわからないよ。でもそれについては安心してほしいんだけど…そんな気ないし、私…身近な人を騙すのは苦手っていうか…」

勝手に遠くなる視点で呟く。
ぼんやりと駆け寄ってくる久々知くんが見えて、思わず手を振ってしまった。

「おかえり二人とも」
「本物!?」
「何言ってるんだ?」

くすくす笑いながら「ほら」と私に手を差し出す久々知くん。
触るとちゃんと温かい。
びく、と動いた久々知くんに驚いて――って私、今、思いっきり手を…!

「っ、ご、ごめん!」
「…いや、その…そっちの道具を…な?」
「はい!お願いしますっ」
「う、うん。名前も三郎次もご苦労さん」
「あ、はい」

恥ずかしさのあまり押し付けてしまってハッとする。
久々知くんは三郎次を労って頭にぽんと手を乗せると、そのまま三郎次が抱えてた荷物まで引き取った。

「久々知くん、私も持つよ」
「すぐそこだから大丈夫だって。代わりに掃除の方頑張ってくれると助かる」

にこっと笑顔で言われて、張り切らないはずがありません。
ぎゅっと自分の手のひらを握る。

――ありがとう、名前

そう、これ!
これを微笑み付きで言ってもらえたら完璧だ。

「よっし!」

張り切って一歩を踏み出し、さっそく蹴躓いて転んだのは…お約束ってことで許されるだろうか――
斉藤さん、足投げっぱなしで座り込まないでください。

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