カラクリピエロ

体育委員会(1)



「立花先ぱーい」
「おや、今日は体育委員会にいるはずの名前じゃないか」
「なんで微妙に嫌味っぽいんですか。まだ少し時間あるんで大丈夫ですよ。これ学級委員長委員会のお土産ですから、みんなで食べてください。できれば私の分も残しておいてくれると嬉しいです」
「土産を自分で食べるのか」
「自分が食べたいものを買ってきたので。それとこっちは在庫切れかけてた首化粧用の紅と白粉です、これが領収書で――立花先輩?」

はぁ、と小さく溜息をついて、いきなり頭をなでてくるから何事かと思った。

「居たら居たでうるさいが、居ないと物足りないものだな」
「…………」
「意外にきちんと役立っていたこともわかった」
「……先輩、今の余計な一言で大分台無しです。っていうか今頃気づいたんですか」
「ふっ、戻ってきたらこき使ってやるさ」

ものすごくいい笑顔してますけど寒気しかしません。

そそくさと報告書類(と言っていいものか)を提出して、席を立った。
集合場所は裏山の入り口だったはず。中庭を突っ切ったほうが速いだろうか。

距離を確かめるべく引き戸に手をかけようとしたら、それがスパンと勢いよく開いた。

「どけよ兵太夫」
「僕が先に着いたんだから伝七がどけ」
「僕のが先だっただろ!」

「……先に私を通してくれる?」

苗字先輩!」
「どうしたんですか出戻りですか?」
「ていっ」

微妙に失礼なことを言う兵太夫の額を指で弾き(うずくまる兵太夫もそれはそれで可愛い)、押し問答していた二人を避けて廊下に出る。
一応退室の挨拶をしようと身体を反転させると、いきなり腕にしがみつかれた。

「どうしたの伝七」
「先輩、作法に戻ってきますよね?」
「………………」

どうしよう可愛い。
でも可愛いって言ってなでると怒るんだよね伝七も兵太夫も。どうしろっていうんだろう。
考えていたら、いつの間にか兵太夫に伝七とは逆の手を掴まれていた。

「どうなんですか苗字先輩、何か言ってください!」
「…えっと、じゃあ…いってきます」

帰ってくるよ、を込めながら笑って言うと、二人して同じように表情を和らげて(安心した?)私の両手を解放してくれた。

結局衝動に負けて伝七と兵太夫の頭をなでてしまった。
いつもは飛んでくる文句――「やめてください」とか――が今日は飛んでこなかったのが少し物足りない……これ、立花先輩と思考被ってる気がする、やばい。

「たのもーー!」

いくらか離れたところから、声と一緒にドーン!と派手な衝撃音が聞こえる。
反射的に立花先輩を見れば、眉を潜めた先輩が立ち上がり、私の肩をそっと押した。

名前に一つ言っておく。限界を感じたら止まれ、無理はするな」
「戦場へ送り出すかのようですね」
「……気をつけてな」
「否定してくださいよ怖いじゃないですか!」

苗字名前ーーー!!」

バリッと音を立てて、作法室の戸が破られた。
室内に転がるバレーボールがあちこちの仕掛けを発動させて二次被害を引き起こしている。

呆然とする私と、一年生二人。
立花先輩は額を抑えて大きな溜息をついた。

「今度こそ当たりだ!さあ行こう、体育委員会は委員会の花形だからな!」
「意味がわかりません……って、ええ!?降ろしてくださ、人攫いーーーー!!」

いきなり現われて言われた言葉を理解できないうちに、ひょいと担ぎ上げられ、次の瞬間には廊下を駆け抜けていた。

「速いです怖いです降ろしてくださぁぁい!!」

「もうすぐ着くから大丈夫だ!いけいけどんどーん!」

「いやーーーーー!」

――先生、体育委員会の委員長はもしかしたら馬借に負けない速度が出せるかもしれません。

無事戻ることができたら、一番に久々知くんに会いたいです。

「…苗字先輩連れて行かれちゃいましたね」
「立花先輩、どうしますか。このままだと作法室が使えません」
「ったくあの馬鹿…………あとで長次にたっぷり絞ってもらうとしよう。伝七、兵太夫、悪いが文次郎と留三郎を呼んできてくれ」
「「はい」」

「…………一応、伊作にも連絡を入れておくか」

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