カラクリピエロ

学級委員長委員会(閑話:久々知)



「――で、どうだったの?」

なんとなく集まって、だらだら過ごす夕食後の時間、雷蔵が三郎に話題を振った。

「…雷蔵、もっと詳細をくれ」
名前とデート。楽しかった?」

名前と三郎が仲良くなったのが嬉しいのか(雷蔵はなにかと気にかけていたから余計かもしれない)笑顔で聞いている。その内容に興味を惹かれて、開きかけていた本を閉じた。

「あんなのはただの使いっ走りの荷物持ちさ」
「って言ってるけど?」
「おれから見たら楽しそうにしてたけどなー。一緒に試食したり小物選んだり――」

勘右衛門がつらつら上げるのをぼんやり聞いて光景を想像していたら、何故か胃の辺りがムカムカした。
悪いものでも食べた時のような――食堂のおばちゃんが作った食事に限ってそんなものは入っていないと思うが。

「どうした兵助」

黙りこくったままの俺を心配してくれたのか、八左ヱ門が寄ってきた。

「――胃もたれ?」
「は?変なもんでもつまみ食いしたか?」
「え、兵助腹痛いの?せっかくお土産食べようと思ったのに」

思いついた答えをろくに考えもせず口にすると、勘右衛門がどこからか出した箱を中途半端に持ち上げた姿勢で声を上げた。
いつの間にか話題は変わっていたらしい。
それに添うようにムカムカも治まっていて、思わずそのあたりに手をあてる。

「……おかしいな」
「お前の言動がおかしいよ。医務室行くか?」
「いや、平気だ。治ったっぽい」

勘右衛門は躊躇うようなことを言っていたにも関わらず、早々に箱を開けて食べ始めながら俺をじっと見てきた。

「兵助はわかりにくいなー」
「何が」
「まあおれは名前のこと好きだけど、どっちかっていえば兵助の味方だからさ」

…………意味がわからない。
俺の味方らしい勘右衛門から放られた菓子を受け止める。理解したくて内容を反芻し、さらりと告げられた前半部分――名前のことが好きだというところで封を開けていた手が止まった。

「勘右衛門そうなのか!?名前のことそういう……え、マジで!?」
「ん?おれなんか変なこと言った?名前面白いし、素直で優しくて面白いじゃん」
「たしかに二度言うくらい面白いな」
「三郎うっさい、ちょっと間違えたんだよ!」
「……なんだよそういう意味かよ」

残念そうに言う八左ヱ門。
それを聞きながらどこか安心している自分に気づいて戸惑った。先程から自分の挙動が謎過ぎる。

「……豆腐食いたい」
「…どうかしたの兵助、大丈夫?」

逃避するように口に出すと、雷蔵が不安げに眉を寄せる。
笑って大丈夫だと返すと、三郎が自分の膝をポンと叩いた。

「そういや兵助、豆腐の試食会いつって言ってたっけ?」
「なんだ三郎も来たいのか?」
「…………それもいいな」

顎に手をやって思案する三郎に、八左ヱ門が「やめとけ」と声を潜めて言う。
なんで小声なんだろう。
雷蔵は「さすがに無傷じゃすまないかもね」と不穏なことを言い出す始末だ。

「――兵助は名前と二人だけじゃなくていいの?」
「美味しいものはみんなで食べるほうがいいだろ」
「まあ、そう言うと思ったけど……ほんとに?おれたち一緒でもいいの?」

重ねて聞く勘右衛門は思いのほか真剣で、答えを躊躇った。
全員はいつものことだから想像しやすい。豆腐は美味しいだろうし間違いなく楽しいと思う。なんの問題も――

「――――やっぱ駄目」
「……だってさ、三郎」

どうしてだろう、彼女と二人だけで行ってみたいと思った。
三郎と勘右衛門の話を聞いた影響かもしれない。それとも嬉しそうに声を弾ませた名前を思い出したからだろうか。

答えた後で理由を探すという奇妙な事態に考え込んでいると、ふいに勘右衛門が肩を叩いてきた。

「兵助、おれは絶対的に兵助の味方だよ」
「…それさっきも言ってたな」
「うん。だからなるべく早く気づいてね」
「…うん?」
「おれ今日ちょっとやばかったから」
「は?」
「話せるだけで幸せとか反則」
「勘右衛門?」

肩に手を置いたまま、ろくに反応できない俺を置いて自己完結してしまったらしい。
訳知り顔で何度か頷いたかと思えば、なにかを探るように俺を見てにっこり笑った。

「ま、おれは二人ともだいすきってこと」

理解できないながらも何か意味がある気がする。
なんとなくそう感じながら、その意味を考えてみようと思った。



-閑話・了-

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