カラクリピエロ

不破雷蔵の提案(後編)


「あ」

話題探しをしていた私は、今一番聞いておくべきことを思い出した。
いざ聞こうと席を見回すとなぜか視線が集中していて驚く。
鉢屋三郎は舌打ちをしたようにも聞こえた。

「どうしたの?」
「……いや、苗字が考え込んでるから」
「みんなに聞きたいことがあって……久々知くん顔赤くない?風邪?」
「き、気のせいだ!それより聞きたいことって?」

解熱剤は鉢屋三郎にあげちゃったしなぁ、と早速思考が別の方へ飛ぶのを引き止められた。

因みにあの薬は捻挫したときに、発熱するかもしれないからと善法寺先輩が調合してくれたものだ。鉢屋は薬を疑っていたようだけど。
ともかく、私は今現在の心配ごとを解消すべく口を開いた。

「――三郎の変装の見分け方?」
「うん」
苗字、お前それを私の前で聞くか?」
「鉢屋三郎くんの前だからこそ聞きたい」
「私と裏の読み合いでもするつもりか。やめておけ、お前では勝負にならん」

さらりと返されたのに一瞬ムッとしたけれど、今怒ったら久々知くんにも迷惑がかかりそうだ。
いくらなんでも久々知くんを間に挟んだまま口喧嘩はしたくない。

(落ち着け私…)

心中で言い聞かせながら深呼吸。ついでにお茶を飲んで衝動をやり過ごした。
鉢屋三郎の見分け方はどうだろうかと改めて四人を見る。

「勘かな」

四人分、綺麗に声を揃えての回答に湯飲みを落としそうになった。

「か…勘!?」
「うーん。雰囲気というか…そもそも三郎は僕らの前じゃ大抵僕の格好だし」
「変装してても中身は三郎のままだったりな」

不破くんと竹谷の言葉に久々知くんと尾浜くんがそれぞれ頷く。
勘しか頼れないのならとても回避なんて無理じゃないだろうか。

視界の隅に、鉢屋三郎の勝ち誇ったような顔が映った。

「…そっか、苗字さんそれで怒ってたんだったね」
「あー、さっきの。そういや雷蔵、針どうした?」
「ちゃんと持ってるよ。苗字さん、返すの後でもいいかな」
「…う、うん」

今話題にしてくるとは思ってなかった。
というか、その辺の事情を詳しく聞かれたら私が報告を途中で中断した意味がないのでは?

興味深そうな視線をそそいでくる久々知くんと尾浜くん。久々知くんの向こうからは不穏な空気。
それに気づかない振りをして、ひたすらご飯を食べた。

「言っとくけど三郎が原因だからね。苗字さんに突っかかるのは筋違い」
(不破くーん!!)

それ以上は勘弁してください、と遮るつもりだったのに。
「そうだ」と言いながらこっちを向いた不破くんが先を続けるほうが速かった。

苗字さん、僕らを観察してみない?」

「…………え?」

観察?不破くんを?“僕ら”ってことは鉢屋三郎も?

――とりあえず、それはにこやかに言うことじゃないと思います。

「ら、雷蔵!いきなり何を言い出すんだ!?」
「三郎の変装見破るのに手っ取り早いと思うんだけど」
「そんなところで大雑把を発揮しなくていい!」

私だけじゃなく他の三人も驚いた顔をしている。
改めて考えても“観察してみない?”ってすごい台詞だ。

「~~~~ッ、それなら!私はしばらく別の奴に変装して過ごすからな!」
「別にいいけど…僕は苗字さんの近くにいると思うから意味ないんじゃないかな。どう、苗字さん」
「…私は、すごく助かるけど…不破くんはそれでいいの?」
「僕が言い出したんだから気にしないで」

にっこり笑ってそう言った不破くんと、一人落ち込んでいるらしい鉢屋三郎。
鉢屋に負けっぱなしの私はそれを不思議な気分で見ていた。

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