カラクリピエロ

わんこへ!書きかけ

※七松視点




裏山から下山したその足で飼育小屋へ立ち寄ると、まだ活動中と思われる生物委員が忙しなく動き回っていた。
目の前を横切っていく一年生から飛んでくる挨拶に応えながら視線を動かせば、忍犬が固まっている辺りに目的の桃色を発見した。

名前!」

びくっと肩を揺らしたのを確認し、こちらを振り返るあいだに駆け寄って柵を飛び越える。
先輩、と咎めるような声を聞きながら名前の隣に着地すると、あからさまにホッとした顔をしてみせた。
もしや、わたしが犬のど真ん中に飛び込んでいくと思われていたのだろうか。
表情の理由を聞こうかと思ったが、それよりも名前の周りに集まっている犬たちがなにかの順番待ちをしているように見えたのが気になった。

「これ、なにしてるんだ?」
「生物委員の手伝い、です……たぶん」
「たぶん?」
「いつの間にかこの状態だったんですよ」

苦笑する名前はちらりと待機している犬たちを見て、自らの膝に乗り上げている一匹を撫でた。
その手には動物用の櫛があり、順番待ちの理由はこれかとその動きを観察した。
ゆっくりと上から下へ。気持ちがいいのか、名前の膝に乗っている犬は目を閉じていて時折鼻先を名前の手に押し付けたり、物足りないと言いたげに鼻を鳴らした。

「ところで、先輩は委員会帰りですか?」
「…………ん?」

じっと犬を観察していたせいか、なにを聞かれたのかすぐには理解できずに名前を見返す。
名前はゆっくり瞬くと、小さく笑いながらわたしのほうへ手を伸ばしてきた。

「擦り傷できてますよ」

傷があるらしい場所を外して頬を撫でていく(痛くなかった)指先を感じながら名前を見る。
不思議そうに見返してきたかと思えばハッと息を呑み、今にも立ち上がりそうな身体を引き留めるために腕を掴んだ。

「ごごごごめんなさい!」
名前から触れてくれるとはなあ」
「いやいや、全然、まったく意識してなかったので!そこは流していただけると……」

じわじわ顔を赤くしていく名前を見ていると、勝手に頬が緩む。
無意識だなんて、それこそ距離が縮まっている証拠だろう。この調子でどんどんわたしに慣れていけばいい。

「なあ名前
「……はい」
「わたしにもそれ、やってくれ」

櫛を通され、気持ちよさそうに名前の膝上でくつろいでいる犬を指差しながら言えば、名前は目を丸くして固まった。

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