カラクリピエロ

ユリコに恋愛相談する三木ヱ門


ふとした用事で忍たま長屋を訪れた帰り道、石火矢を磨く三木ヱ門を見かけた。
ユリコ、と漏れ聞こえた呼びかけにはいつものデレデレした感じはなくて、どこか切羽詰まった雰囲気。

今の三木ヱ門からは、くだらないことで滝夜叉丸と張り合って、二言目には“忍術学園のアイドル”なんて戯言を垂れ流す自称アイドルの面影が感じられなかった。

にょきっと好奇心が芽生えて気づかれないように距離を詰める。耳を澄ますと、やけに重苦しい溜息が聞こえた。

「ユリコに鹿子、サチ子や春子といるときも…急に出てきたりするんだ」

答えなんて返ってくるはずないのに、三木ヱ門はまるで石火矢が生きてるみたいに鉄の塊に向かって話しかけている。
いつもならからかって遊ぶところだけど、どうやら本気で悩んでいるらしくて出ていくタイミングをなくしてしまった。

「そりゃあわたしはくの一教室でも評判の忍術学園のアイドルだけど、あいつにはこの魅力がわからないみたいで…」

――やっぱり、いつもの戯言かもしれない。
くの一教室での評判といっても、三木ヱ門が期待してるようなものとは真逆だって断言できるくらいだもの。

小さく息を吐き出してそうっと覗き見ると、三木は石火矢に覆いかぶさるように寄りかかってぐんにゃりしていた。

「……ユリコ、あいつと会話を続けるにはどうしたらいいと思う?」

沈み込む声は真剣だとわかるけど、なんせ相談相手は石火矢だ。どう頑張ったって答えなんて返ってこない。
せめて同じ学年の忍たまとか、委員会の先輩とかに相談したらいいのに。

(……しかたないなぁ)

すっくと立ち上がってお尻を叩く。
ぎょっと目を見開いた三木ヱ門は口をパクパクさせながら私を指差した。
その動作にムッと眉間にしわを寄せても彼は気づいていないのか、じわじわ顔を赤くしていく。

「お、おまえ……いつから……!」
「ちょっと前。三木ヱ門が女の子の名前ずらずら並べてたあたりかな」
「そ、それは、本物の女の子じゃなくて、」
「火器の彼女でしょ?」

三木ヱ門がじりじり下がっていくのを放置して、石火矢のすぐ横に座り込む。
寄りかかったら怒られるかなと思ったけど、三木は何も言わなかった。

「三木ヱ門、相談なら人間相手にしなよ」
「…………誰に」
「滝夜叉丸とか。仲良いでしょ?」
「仲良くない!誰があんな奴に相談なんか…!滝夜叉丸に言うくらいなら左門や潮江先輩の方がまだマシだ!!」

ギッと目尻を釣り上げて怒りだす三木ヱ門の勢いはちょっと引く。
じゃあその先輩に相談してみたらと言ってみたら、今度は「言いにくい…」と眉根を寄せて顔をしかめた。

「……それなら……私、とか」
「は?」
「ほら、その…聞いちゃったし、交流関係に悩んでるのかなって。くのたま相手なら引き合わせるくらいはしてあげる!」

軽い気持ちで盗み聞きしてしまった罪悪感から、ドンと胸を叩いて言ってみた。
三木ヱ門はなぜか呆れた顔で溜息をつき、少し近寄ってくる。

名前、協力してくれるって本当か?」
「呼びだすくらいなら」
「…そんなの、お前の手を借りなくてもできる」
「うー…、じゃあ仕方ないから会話が弾むまでいてあげるよ」

不満そうな三木ヱ門に見得を張ったはいいものの、内心めんどくさいなと思わずにいられない。
だってこいつと会話を弾ませるなんて至難の業だ。
三木の口から飛び出る話題といえば、自分の話か火器の話か照星さんの話くらい。滝夜叉丸の愚痴もあった。それと、たまに会計委員会での苦労話。

「呼びだす前に、三木ヱ門は話題の選択から考えた方がいいと思う」
「――例えば?」
「趣味とか好きなものとか…相手の好きなものだからね?三木は自分のことばっかり話しすぎなの、聞いててつまんないもん」
「…………つ、つまらない」
「あ、でも私三木の話で委員会の話は結構好き」
「え!?」
「まだまだ頑張れるって思えるし!」




三木ヱ門→夢主。
いつ“お前のことだ”って言おうか内心そわそわしながら探りいれる三木ヱ門。


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