※scene.2の真ん中あたり夢主side
久々知くんに話を聞いてから、私はちょくちょく図書室を訪れて“吸血鬼”についての資料をあさっていた。
だけど自分ではどうにも上手く見つけられなかったから、図書当番をしていた“沈黙の行き字引”こと中在家先輩を捕まえて質問責めにしていた。
先輩は無言なことが多いけど、質問すればちゃんと私にもわかるように答えてくれるところがとてもありがたい。
某先輩みたいに皮肉も意地悪もないし、お説教に発展したりしない。笑顔でサラッと毒を吐くことも脱線したりもないから、安心して聞けるのも助かる。
「――中在家先輩、それ本当ですか!?」
「…………」
図書室内では静かにしろ、とでも言いたげな無言の圧力を感じたけれど、それどころじゃない。
たった今聞いたことを反芻して唸っていたら中在家先輩がボソリと何かを呟いた。
「? なんですか?」
「“図太さが仙蔵”…えーと、立花先輩に似てるって」
通りがかった不破くん(図書委員として書棚整理をしていた)が、通訳に入ってくれたのは嬉しいけど…それ絶対褒めてませんよね。
だいたい私のどこが立花先輩に似てるというのか、中在家先輩もなかなか失礼な人だ。
「…………名前」
「ん?」
「全部声に出てるよ」
困った顔で笑う不破くんの小声に何度も瞬いてからぎこちなく先輩の方へ首を向ける。
中在家先輩は「はぁ…」と大きなため息を吐いてやれやれと言いたげに頭を振って書棚の奥へ行ってしまった。怒られなくてよかった。
通訳の不破くん曰く“そういうところが”とこぼされたらしいけれど、やっぱり納得いきません。
そんなことより。吸血鬼の食事は美女の生き血が主って…………久々知くんも?
心の底の方では未だに信じきれてない自分がいるのを自覚しながら、胸の奥にもやもやしたものがくすぶる。
いつの間にか先輩が探してきてくれた本を借りて、図書室を後にした。
パラパラめくると食事中と思われる部分を見つけて、もやもやが大きくなる。
記述内容は不気味で怖いけれど、それよりも気になるのは――凶悪な顔をした男が美女の首に噛みついている、この絵だ。
「――名前、そのまま行くと危ないぞ」
「わあ!?」
「っと、ほら」
危うく足を踏み外しそうになったところで久々知くんの手に助けられた。
反動でよろけて久々知くんの胸にぶつかる。お礼を言いながら離れかけ、不意に湧いた疑問をそのままぶつけてしまった。
「…久々知くん、美女って美味しいの?」
「は?」
久々知にあわないまま悶々したのがscene.2だと思います
吸血鬼の恋
豆腐部屋
1112文字 / 2013.11.26up
edit_square