カラクリピエロ

あなたじゃなきゃ嫌なんです

※4話の最後で三郎が躊躇った場合
※竹谷視点




「…つらいの…」

名前は愛犬の首に顔を埋めながらぽつりとこぼした。
飼い主の様子がただならないことに気づいているのか、名前のペットは悲しげに鼻を鳴らす。
俺はそれとは逆側に腰を降ろし、顔を上げない名前の背中にぽんぽんと手を置いた。

「あー…三郎はさ…ほら、あれだよ……ひねくれてっから思ってないこと言ったりやったりすることも」
「そんなの、私にはわからない!」

ばっと顔を上げて振り向く名前から手を離す。

「わかんないよ…」

もう一度、泣きそうな声で呟いたかと思えば、ボロッと大粒の涙が両目から溢れて思わず固まってしまった。
前にも三郎関係で弱っていたことはあったが、俺の前じゃ実際泣くまではしなかったのに。


「な…泣くなよ…」


情けなくもオロオロして両手が無意味に動く。
咄嗟に頭を撫でて、よしよしと声をかける――まるっきり一年坊主にするのと同じ対応だけど、少しは効果が出ることを期待した。


「大丈夫だ」


根拠もなく言い切る俺に相の手を打つように、名前のしゃくりあげる声が聞こえる。

「大丈夫、大丈夫」

すっかり俯いてしまった頭を避けて背中をたたけば、名前は傾いて俺の肩に寄りかかってきた。
そんなに力を入れたつもりはないんだけど、こいつ案外軽いからな。

じんわりと肩が濡れている気がするのは涙のせいか。

(…あったけぇな…)

肩に顔が触れているからか、湿っているのに冷たくない。
ぽんぽんと頭に手を置く俺に合わせて名前がゆっくり息を吐いた。

「……わたし、竹谷を好きになれば良かった」

いつもの名前なら絶対に言わないような弱音に驚いた。
そこまで追い詰められてるなんて、三郎はこいつに何を言ったんだ。

「――別に、今からでも遅くねぇだろ」
「?」

顔を上げようとする名前の背中に腕を回して抱き寄せる。
びくりと跳ねて固まる名前と――ふっと一瞬だけ現れた三郎の気配。集中乱すくらい動揺するなら傷つけんなよ。

「た、竹谷…」
「ほんとに、なんでお前三郎なんてめんどくさいやつ選んだんだ?」





うっかりどろどろしそうだったのでやめました。

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