カラクリピエロ

球技大会


※久々知視点





掛け声やシューズの擦れあう音、ボールの弾む音に混じって聞こえた声。
反射的に振り返れば、膝に手をついて荒い息を吐きながら駆け込んできた名前が、入口付近にいた生徒に話しかけているところだった。

いくつか言葉を交わし、ふにゃりと顔を緩める。
――また無防備にそんな顔を撒き散らす――自分勝手な不満を覚えながら近づくと、彼女が腰を曲げてお礼を言っているところへ到着した。

「あ、久々知くん!間に合ってよかったー!」
「どこいってたんだ?」
「友達の手伝いで審判してきたの。ほら、私負けちゃって暇だから」

にこにこしながら事情を説明してくれる名前はなんだか楽しそうで、つられて顔が緩む。
ソフトボール、卓球、バスケ、どのクラスが勝ちあがってて――と話を聞きながら随分色々回っていたんだなと思う。

不意にくしゃみをした名前に驚いて額に手をあてると「きゃっ」と小さな悲鳴をあげて身体を震わせた。

「もう、いきなり…」
名前、ジャージは?」
「上着なら教室に置いてきちゃった。暑いからどうせ着ないかと思って……あの、久々知くん?」

話の途中で自分のジャージを脱いで名前の肩にかけると、問うような視線を投げてくる。

冷えて名前が風邪をひくかもしれないから。
周りよりも一枚薄着である名前を見られるのが嫌だから。

じっくりと言い聞かせ、赤くなった名前に満足したところで体育館の隅に移動する。
名前を用具置場に押し込んで、名前の肩にかけたジャージの襟元を掴みながら彼女の首元に顔を埋めた。

「ちょっ、久々知く、んっ!」

ぎくりと身体を強張らせ、身を縮める名前がへたり込む。
尚も追いすがって痕を濃くすると、鼻から抜けるような掠れた声が漏れ聞こえた。

「なななななに、するの、こんなとこで!!」
「…名前こそ、そういう声出すの反則だろ」
「なっ、それは、そんなの、久々知くんのせいだもん!」

顔を赤くして、唇を震わせながら見上げられても逆効果にしかならないのに。
しかも俺のジャージにすがるみたいに顔を埋めながらの言い逃げまで追加するなんて。

そっと名前の前髪を掬い取ったところで、扉の向こうから進行中だった試合終了のホイッスルが聞こえる。
ハッとして手を引くと、それに伴うように名前も顔をあげた。

今の試合が終わったということは、次はうちのクラス。
つまり俺の番でもある。

名前、それちゃんと着ておいて」
「~~~~ッ、着るよ!」

文句を言いたげな様子を見せながらも、おとなしくジャージに腕を通す名前が可愛くて口元が緩む。

ついでに――予定通りささやかな主張を兼ねられる。

これがバレたら本格的に怒られるだろうか。
ふとそんなことを考えながら、自分の試合に参加するためにコートへ向かった。

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