作法委員の暴走(1)
片想いを成就させたいと思い始めた私は、どういうわけか委員会の先輩である立花先輩を相談相手に選んでしまった。
いや、理由は一応ある。
くのたまの同級生や先輩にも軽く話題を振ってみたけれど、彼女たちから返ってきた第一声が“誰を騙すの?”という何とも素敵な提案だったからだ。
くのたまは大多数が忍たまを悪戯対象としか見ていないから仕方ない。うん、仕方ない。
それはともかく、今現在。
立花先輩の強引な協力を得て、相手と二人きりだ。
――深くて暗い穴の中で。
+++
本日の委員会活動は『フィギュアを使って首化粧を練習する』という名目だった。
立花先輩は次から次へと学園長の生首(フィギュア)を量産しながら首化粧の出来栄えを見て回ってくれている。
――もっとも、真面目に取り組んでいるのは私と藤内だけだ。
一年生二人は何故かカラクリの設計図を広げてあーだこーだ言っているし、喜八郎に至っては姿すらない。
……そのうち泥をつけた格好で参加するんだろうけど。
「名前」
「はい?」
「視線が鬱陶しい、言いたい事があるならさっさと言え」
若干うんざりとした様子で、立花先輩が言った。
立花先輩からなら、有益な話が聞けるかもしれない(経験豊富そうだし)。
――という私の思惑が顕著に出てしまっていたらしい。
「では……つかぬことを伺いますが、立花先輩。好きな人はいますか?」
「…………すまないが、名前。お前のことは妹としか見られない。わかったらさっさと手を動かせ」
「動かしてます!それより先輩、それ答えになってないじゃないですか」
「私はお前の告白に応えたつもりだが?…ここもここも雑だし崩れている、やり直しだ。化粧の手順は授業でやっているだろう。くの一教室は私たちより多く時間を割いているはず。だというのにこの出来…」
「生首が不気味だからです…大体新色の紅をこんな不気味なフィギュアに使うなんてもったいない!」
「学園長先生の首になんてことを言うんだお前は」
「どうせなら伝七と兵太夫に使いたいです……っていうか先輩に告白なんてしてませんよ何言ってんですか!!」
立花先輩に食ってかかりながらフィギュアから顔を上げる。反応が遅れてしまったのが悔しい。
私と立花先輩の応酬が気になるのか、後輩からの視線を感じた。
室内を見回すとササッと目を逸らされてしまう。
(…地味に堪えるなぁこれ)
「違うのか?相手に想い人がいるかを確かめるなんて告白の前フリだろう」
「冗談やめてください、立花先輩とお付き合いしたいとか無いです。私そんなドMじゃないんで」
「…ほう?」
「あ、違います、言い間違えました。そんな大それたこと思ってませんて言いたかったんですよ、兄と妹の距離感丁度いいですよね、私にはもったいないくらいです。立花先輩って優秀で綺麗で器用で私なんかじゃ釣り合い取れないっていうかすみませんその笑顔やめてくれますか」
一息にいいながら藤内を盾にして部屋の隅へ下がる。
立花先輩はこうやって楽しそうに笑ってるときが一番怖い。
「あ、苗字先輩そこは」
「ッ、ぎゃあ!?……へ、へ~だゆう~!!」
「離してください」と主張する藤内を無視して、彼を捕まえたままずりずり下がっていたら兵太夫が仕掛けたカラクリのスイッチを押してしまったらしい。
天井から飛び出てきた網により、私はあえなく御用となった。哀れ藤内は巻き添えだ。
私を見下ろす立花先輩は笑顔から呆れ顔に変わっている。
どうせ“くのたま五年にもなってそんな簡単な罠にかかるとは…”なんて思ってるに違いない――作法室内に罠を仕掛けるほうにも何か言ってやってください。
「おやまぁ。新しい遊びですか?」
予想通り、泥だらけで登場した喜八郎のおかげか(遅刻だなんだと立花先輩の注意がそっちに飛んだ)、お仕置きを受けることなく解放してもらえた。
ありがとう喜八郎、今だけ感謝。
全てはここからの段
1641文字 / 2010.09.08up
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