カラクリピエロ

(アン)ラッキー?


※両想い





普段は名実ともに不運な僕だけど、このごろそれが軽減されている気がする。
数日前にそれを同室の留三郎に言ってみたら「気のせいだろ」の一言で流された。

『でも、留三郎だって最近僕に巻き込まれてないじゃないか』
『それは苗字に役が回ってんだよ』
『…………確かに、そうかも』

――と、背中に回された華奢な腕を感じながら思い出していたら、胸の辺りから小さく唸り声が聞こえた。

「伊作…ごめん、私まで…」
「そんなことより怪我ないかい?起きられる?」
「うん。おかしいな、助けるつもりだったんだけど」

そうブツブツ言いながらゆっくり身体を起こす名前が、背に回されていた腕を引き抜く。
なんというか、恒例の落とし穴に嵌ってしまった状況なわけだけど――僕にしがみ付く格好で名前が上に乗っているなんて、逆においしいんじゃないだろうか。

運んでいたトイレットペーパーは一部駄目になっちゃったし、落ちたときに腰を打ち付けてちょっと痛いけど。

こんなことになったのは、通りすがりの忍たまにぶつかられた拍子によろけて、トイレットペーパーが落ちそうになって、それを支えようとしたら横から名前がぶつかってきたんだっけ。
で、結局一緒に落ちたんだ。

「あの…伊作…」

もぞもぞ動く名前から気を逸らすのに回想していたら(だって彼女を見ていたら色々と困ることになりそうだ)、控えめに声をかけられた。
問い返せば気まずそうに僕の装束を握って顔を伏せ、額を強く押し付けてから顔を上げた。真っ赤だ。

名前?」
「す、すぐどくから!ごめん!」
「え、あ、ちょ!?」

ぐっと両腕を支えに上体を起こした名前が一旦僕の上に座って、よろよろしながら腰を浮かせた。
それに合わせて少し動いてはみたけど――視覚の暴力だなぁと思う。ついでに直で座ってくるなんて、気を散らすのが大変で仕方ない。

「わっ」
「! 危な」

あ。やわらかい。
――なんて、この状況で考えることじゃなかったよね。

足を滑らせてバランスを崩した名前を慌てて支えた僕は、抱き締めた拍子に彼女の胸に触れてしまった。

「き、あ、きゃあああ!」
「――ごごご、ごめんっ、これ事故!事故だから!」
「い、いさ、わかっ…離し、て」

言われたとおり離そうと思っているのに、動揺しすぎていて上手く動かせない。自分の腕なのに、人体って不思議だ。

(って、そんな場合じゃないだろ!)

ピク、と身体を震わせて手足を縮める名前が僕の腕を掴む。
小刻みに震える指先にどきりとしながら、焦りと緊張とで硬くなった腕を強引に動かした。

脱出するために動いていたはずなのに、腕を組んで僕を見下ろしている名前の前で正座している僕。事故とはいえ、怒られても仕方ないなと思っているから(役得だったのは否定しないけど)素直に謝った。

「…ほ、本当にごめん」
「…………殴らせて」
「うん――それで名前の気がすむなら」

ゆっくり深呼吸して目を閉じる。
思う存分やってくれと思いながらも内心かなり緊張していたら、ぺち、と全然痛くない強さで頬に手のひらが当たって、疑問交じりに見返してしまった。
途端、首に腕を回される形で抱きつかれて驚く。

「……名前?」
「そんなんだから…………いいよ、私も事故ってわかってたし」
「いいの?」
「聞き返さないで!さっきのはすぐに離さなかった罰」

罰って。全然痛くなかったよ。
そうは思ったけど、ぎゅうぎゅうと苦しいくらい抱き締められる感触に、頬が緩むのを感じながら黙って抱き返した。






「なあ苗字
「なに?」
「お前、伊作といてうんざりしたりしねぇのか?」
「ちょっと、留三郎…何言い出すんだお前は」
「するけど?」
「え!なに、その“当然あります”みたいな…え、本当に!?」
「いや…というか、逆にうんざりされないと思ってたの?」
「………………するね、うん。する」
「こういうところが好きだから一緒にいるの」
「…そーかい」
「あらら、食満もイイ人欲しい?紹介してあげよっか」

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