カラクリピエロ

君のとなりでねむりたい+α


※尾浜視点




カチャカチャと食器の音が響く食堂で、おれたちのテーブルは不自然な程静かだった。
それというのも珍しく…ほんっとうに珍しく、名前が無言だったからだ。いつもならにこにこ楽しそうにしているのに今日はそれがない。
俯いて、ただ黙々とご飯を口に運んでいる。

それに引きずられるのもなんだけど、どことなく話しかけるのが躊躇われた。
兵助は名前を気にしているものの、特に触れるつもりはないらしい。
それともタイミングを計っているんだろうか。

「…名前さ、何かあったの?僕でよければ聞くけど」

空気に耐えかねたのか(名前の正面に座っていたことも一因かもしれない)、そっと気遣うように雷蔵が口にする。
名前は隣の兵助をちらと見て、小さく何かを呟いた。

「…………ごめん、もう一回言ってくれる?」
「……久々知くんが、どうしても私の兵助パペットを返してくれない」

ムッと眉根を寄せて言う名前はいかにも深刻そうだけど、その内容は忍たま低学年でもやるかどうかって感じのもので、聞き間違えたかと思った。
っていうか何その“兵助パペット”って。

お茶を啜りながら改めて聞けば、平滝夜叉丸作成の人形らしい。
力説する名前の話からすると相当出来がいいみたいだし、部屋に戻ったら見せてもらおうかな。

「……返してやれよ兵助」
「兵助、たかが人形だろうが」

やれやれといった感じで八左ヱ門と三郎が言うのにあわせて名前がうんうんと頷く。
それが気に入らなかったのか、変に意地になっているのか…兵助は憮然として「されど人形だ」と呟いた。ぶっちゃけ意味がわからない。


「それに、俺はちゃんと返す条件も提示した」


しれっと言い放つ兵助の隣で一気に赤くなる名前を見て、これ以上つっこまないほうがいいなと思い至る。人の恋路は邪魔しちゃいけないってよく言うしね、うん。

「ならそれさっさとやりゃいいじゃねーか」
(あーあ……)

八左ヱ門は自ら地雷を踏みに行くのが好きなのかって聞きたくなる。
勢いよく首を振って答えを拒否する名前を肘でついてからかう八は後で兵助からの攻撃を覚悟したほうがいいかもね。言わないけど。

「しつこい!」
「いいだろ?別に減るもんじゃねーんだから」
「~~ッ、わかったよ!…………と……って」
「………マジか………兵助、お前やるな」

根負けした名前がごにょごにょと伝え終わった頃、八左ヱ門はやけに感心したように兵助を見た。
言われた本人は八左ヱ門のその表情が意外だったらしく、訝しげな表情で名前と八を見比べている。

「でも同衾て割に合わなくねぇ?」
「なっ、ば…!添い寝だよ竹谷のばか!」

――一度に三人が噴出したのってすごい珍しいと思うけどさ。
思いっきり味噌汁飛んできたよ兵助。

「たいして違わねーだろ…いて、痛ぇって!」
「全っ然違う!ああもう、やっぱり竹谷になんて言うんじゃなかった!!」

それ以上言葉を重ねる気は無いらしく、名前は赤い顔のまま一人黙々とご飯を食べて「先に帰る」と言い残し食堂を去っていった。
残されたのは咽る兵助と、同じく苦しそうな雷蔵と三郎、顔面を拭くおれ。それと不満そうな八左ヱ門。

「あいかわらず乱暴だなあいつは…」
「…八左ヱ門、お前は『デリカシーがない』と言われてフラれるタイプだな」
「んだとぉ!?」
「――八はともかくさ、追いかけないの?」

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