カラクリピエロ

体育委員会編if


「…………苗字

ふいに聞こえてきた声にハッとして振り向いた。
ら、すぐ目の前に立たれていたものだから思わず息をのむ。遠くから呼ばれたのではなく、小声だったからのようだ。
対峙する二人などどうでもいいと言いたげに、私の目の前に紙をつきつけるのは図書委員会委員長。

「…………」
「な、中在家、先輩…?」
「…………」

無言で紙がさらに迫ってくる。見ろということか。
中在家先輩が持っているのは図書貸し出しカード――タイトルは先日課題のために借りた本と同じ……

「あ!」

一度借り直しをしたところまでは覚えていたのに、課題が終わった安心感で返却を忘れていた…と言い訳はともかく、確実に期限を過ぎている。

「すみません!延滞、ですよね!?」

頷く中在家先輩。
私は反射的に先輩の手元を確認した。大丈夫、武器は持っていない。

「………今日中………」
「は、はい!必ず!」

しゃきっと背筋を伸ばして返事をする。
こんなに緊張しているのは立花先輩が中在家先輩に関する怖い話をするからだ。普段物静かな分怒らせると怖い。立花先輩が誇張しているのかもしれないけど、妙に真実味のある話を私は信じてしまっている。
ともかく中在家先輩がもう一度頷いたのを確認して、やっと肩から力を抜いた。

「長次!飯行こう!」
「!!」

驚きと、体当たりされた衝撃で心臓が止まるかと思った。安心した直後だったから余計。がしっと肩を掴まれたおかげで転ぶことはなかったけれど、痛いし苦しい。
前のめりでせき込んでいるせいで足元しか見えなかったものの、中在家先輩が何か言ったのはわかった。小声過ぎて聞こえなかったけど。

「う…それは困る……名前、今日は無理か?」
「……え?」

というか七松先輩と勘右衛門の勝負(?)は終わったんだろうか。





「あまり構いすぎると嫌われるぞ」といわれました

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