カラクリピエロ

素直になれない(5)


※竹谷視点





名前を押さえつけたまま唇で肌に触れ、軽く吸う。ビクッと大きく跳ねる身体に煽られて、今度はより強く吸いついた。
薄く色づいた肌を見て湧き上がるこの感情をどう言ったらいいのかわからないが、とにかく名前がもっと欲しい。

首筋に口付けながら右手を名前の身体に這わせる。装束越しでもわかる滑らかな曲線と温かさ、女特有の柔らかさに興奮する。
脇から腰を撫でて下から持ち上げるように胸に触れると、一際大きく跳ねた名前が俺の腕を掴んだ。

「い、や……はち、ざ、」

途切れがちの呼び声に混じる嗚咽にハッとする。
俺が掴んだままの名前の手は小刻みに震え、爪が食い込むくらいきつく握られていた。

名前…」

力を抜いて名前を引き起こし、震えっぱなしの身体を緩く抱き締める。
俺の後悔って全然役に立ってねぇなと自嘲しながら名前が落ち着くのを待った。

「…ケダモノ」

強がりの延長なのか、名前が俺を睨みながら言う。
涙目でのこれに軽く興奮した俺はいよいよヤバイかもしれない。

「謝って」

無反応に焦れたのか(自分を落ち着かせるためだったんだけど)、名前は「そうしたら許してあげる」といつもと同じような…でもいつもよりもずっと弱々しい口調で続けた。

「…悪かった」
「もっと、ちゃんと謝って」
「ごめんなさい」
「もうしない?」
「いや、それは約束できねぇよ」

少し前の誤魔化しが台無しになる勢いで正直に答えた俺に、名前が眉根を寄せる。

そんな顔されてもな。許されただけでも御の字だけど、好きな女に色々したいってのはもう本能だろ。
……“許す”なんて選択肢をくれるなら、さっさと俺のこと好きだって認めりゃいいのに。

「――……八左ヱ門、念の為聞きたいんだけど…あなたって私の身体が目当てなの?」

唸るようにしていた名前は難しい表情のまま、そんなことを聞いてきた。
思ってもない内容すぎて、意味を理解するのにだいぶ時間がかかる。

名前にこんな質問させたのは、やっぱ、俺の行動が原因だよな。

「…そりゃもちろんヤりてぇけど」
「!? さ、最低!!」
「まだ続きあるから聞けって!!」

身体を強張らせ、泣きそうになる名前の両肩を掴んで言うと華奢な身体がびくりと跳ねる。

――またやった…
怖がらせるつもりなんて全然ないのに、どうしてこう上手く行かねぇんだ。

名前は唇を噛んで俺を睨むけど、そうしてないと泣きそうなんだろうなというのがなんとなくわかった。
潤んで揺れる瞳を見返しながら、一呼吸おいて言葉を選ぶ。

「俺は、お前が好きで…だから、欲しいんだよ、全部!」
「…さっき、無理やり、」
「それはマジで俺が悪かった!」

強引に遮って、そのまま名前を抱き締める。
いやらしく動きそうになる手を意識しながら押し留めていると、腕の中で名前が身じろいだ。

「――条件を増やしてもいい?」
「なんの?」
「私が、八左ヱ門の…その、信じる、条件」
「…ほんと強情だよな…」
「いいでしょ別に!!」

それより了承するかどうかだけ答えろと言いたげな雰囲気だけど、手の甲を口に当てて気まずそうに逸らされた顔は赤い。

「……お前、すげー可愛い」
「っ、か……そんなの、八左ヱ門の目がおかしいだけよ」

そこは惚れた欲目って言ってくんねぇと。
いや、欲目がなくても名前は充分可愛いけどさ。

そういえば、普段の名前はどっちかといえば綺麗系になるんだろうか。

ついでにくのたまらしく、作り笑いや忍たまを煽る言動もお手の物。料理や菓子に紛れさせ、忍たま(というか俺)を薬の実験台にするのは当たり前。

――副作用が手痛いとはいえ、好きな女の手料理を独り占めできるって結構でかいと思う。

普段はツンと澄ましていることも多いけど、ふと素に戻る瞬間とか見ると…やっぱり可愛いよな。

「聞いてるの八左ヱ門」
「あー…、名前は俺の前では可愛いってことだな」
「ち、違うでしょ!?条件の話してるのに!!」

目を見開いて顔を赤くする名前の頭を撫でる。すぐさま音を立てて振り払われて、中途半端な位置で浮く俺の手に視線をやる名前は、一瞬だけ痛そうな顔をした。

「――たまんねぇなもう…」
「なにがよ!いきなりなに!?」
「触りてぇんだけど」
「ばっ、そういう、直接表現やめてよ!」
「お前が黙ってやるなって言ったんだろ?」

だからちゃんと口に出したのに、これはこれで文句言うのか。
かといってまた黙ってやったら歯止め利かなくなりそうだし、それで名前を泣かすのもな…

そんなことを悶々と考えていた俺は、名前の発した言葉が上手く聞き取れずに聞き返し、その内容が信じられなくてもう一度繰り返させた。

「“私に触らないこと”を条件に加えてって言ったの」

――本気か。俺がお前に触りたいって言ったの聞いてその条件って、相当キツくないか?

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