カラクリピエロ

わたしの恋を試してみないか(3)


※久々知視点





「お前なぁ、そんな大雑把な方法があるか、雷蔵じゃあるまいし!」
「三郎が具体的に教えてくれないからでしょ!?」
「だから、私がやってやるって言ってるだろ」
「悪戯されそうだから嫌。それに、三郎に頼むくらいなら不破くんにお願いする」

――よく疲れないな。
絶え間なく続く二人のやり取りに思わず感心する。
俺の隣で乾いた笑いを溢した雷蔵は、次いで溜息を吐き出した。

「兵助…僕ちょっと泣いてもいいかな…」
「……うん、いいと思う」

なぜか引き合いに出され、板ばさみ状態の雷蔵を気の毒に思いながら三郎を視界に入れる。
微妙に焦ってるように見えるのは気のせいだろうか。

確か、枝毛がどうのから始まって、その枝毛が見つからないと焦れた苗字が「もう毛先全部切る」と言い出したのが発端だっけ。

「大体、その手に持ってるのはなんだ、それで切るつもりか!?」
「そうだけど、悪い?」
「馬鹿か、余計痛むだろ!」

ぐっと言葉に詰まる苗字の隙をついて、三郎はさっさと苗字の手に握られていた苦無を取り上げた。

「なあ雷蔵」
「ん?」
「今のって女扱いじゃないか?」
「え、そう?」

どの辺が?って顔を返されて、やっぱり俺の気のせいかなと思い直す。

「いや、三郎が苗字の髪を気遣ったように見えたから」
「あ、そうだね。八のときは面白がってるもんね」
「八左ヱ門のは今更だろうが!」

同意を示した雷蔵の台詞は、途中から三郎の声が被って聞き取りづらかった。
こっちの話も聞いてたのか。
それは苗字も同じらしく、何度か瞬きをして確かめるように三郎と雷蔵の顔を交互に見ている。

「…そうなの?」
「何の話だ」
「だから、髪…気にしてくれたの?」
「はっ、そんなわけないだろ。単に変装の前準備の都合さ」
「…………そ、だよね…うん、三郎は、完璧、目指してるもんね」
「な、なんだ急に」

勢いは萎んで、それでも笑いながら前髪をいじる苗字は、懸命に“いつもどおり”を演じているように見えた。

雷蔵は三郎の動揺が見える言葉を最後まで言わせることなく、途中で肘を入れた。加減を間違えたのか、聞こえた音は重い。
うめき声と共に恨めしそうに雷蔵の名を呟き、崩れる三郎の身体を引っ張る。

「三郎の言うことは別としてさ、苗字さん髪大事にしてるみたいだし、痛んだら絶対もったいないよ」

空いたところに滑り込んだ雷蔵が手振りを交えてそう言うと、苗字は「そうだね」と小さく頷いて苦笑を浮かべた。

「……こんなんじゃ、竹谷のこと怒れないね」
「八左ヱ門には釘刺しておくくらいで丁度いいと思う」
「ふふ、不破くん厳しい」
「そ、そうかな」

緩んだ空気にどこかホッとして、掴んだままだった三郎を放す。
憮然とした表情で苦無(苗字のだろう)を回転させていた三郎に声をかけると、不機嫌そのままの声で「なんだ」と返された。

「……いや、なんでもない」
「呼んでおいて…気になるだろ」
「何て言ったらいいかわからないんだ」

ひねくれた応対に言動。苗字に対して特に酷い気がするが、どうしてなのか。
今の不機嫌は俺と雷蔵の行動に対してなのか、それとも苗字の反応か。
どの内容も問いかけるのは“余計なこと”に触れる気がする。

「ひねくれてるのが悪いんだよな」
「…それは私のことか?」
「なんだ、自覚あったのか」
「…………お前は時々素で酷いと思うんだがどうだ」
「心外だ」

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