雨の日オムニバス【尾浜勘右衛門編】
――ああ、ついてない。
週刊誌を買って帰ろうと立ち寄ったコンビニの中から苦々しく外を眺める。
唐突に降ってきた雨は強くて外に出る気を殺ぐ。コンビニなんだから当然傘は売ってるけど、どうせこれ通り雨だしここから寮へはそんなに遠くないから気合さえあれば走って帰れる。でもびしょぬれ必至なのがやだ。
だいたいビニ傘なんて同室の…兵助のと合わせて既に三本はあるんだから買うのもったいない――と雑誌を立ち読みしながらぐだぐだしてたらパステルカラーが店の前を横切るのが見えた。
くるりと回った水玉模様。折りたたみの傘だ、いいなぁおれも今度から持ち歩こうか(いつも思うだけで終わるけど)と目で追いながらなにげなく持ち主を見て、急いで雑誌を棚に戻し慌ててコンビニを飛び出した。
「名前!」
パシャパシャと水たまりを蹴飛ばして呼びかけに振り向く彼女の隣に滑り込む。
その拍子に思いっきり彼女の足元に水が跳ね、うわ、と非難めいた声が聞こえた。
「ちょっと勘右衛門!」
「あー、ごめんごめん」
「…悪いと思ってないでしょ」
軽く髪をかいて水滴を逃がしながら謝ったら、名前はジト目で言いながら肩にかけている鞄をごそごそ探る。
途中で「ん」と傘の柄を突きだされ、反射的にそれを受け取った。
「何探してんの?」
「んー……あった。はい」
ふわっと頭に降ってきたタオルに驚く間もなく乱暴に頭を拭かれる。ぐしゃぐしゃとかき混ぜられて、遠慮もなにもあったもんじゃない。
文句の一つも飛び出そうなそれに、うまく反応できなかった。だって、こんなの反則だ。
「勘右衛門どこから走ってきたの?」
微かに首をかしげて笑う彼女がタオルをしまう。
質問に答えるどころか、向けられた笑顔と行動のせいで自分の顔が熱くて……名前がかわいくて、なんかもう、どうしようもない。
感極まって抱きしめたら、ぎゃあ、となんとも言えない悲鳴が上がる。
いきなり抱きしめたのは悪かったかもしれないけど、もう少し可愛い反応をしてくれてもいいと思う。
濡れるから離せとおれの背を叩く名前との温度差が悔しい。不満も込めて肩に頭をすりつけると、びくりと跳ねて固まった。
「…あの、勘右衛門?」
「好きだよ名前」
言うなりじたばた暴れる名前が傘から出ないように押さえ込む。
ふらふら動いてしまった傘はおれも名前も守りきれてなかったけど、そんなには濡れなかったから割と器用に支えられたんだと思う。
真っ赤になった名前を満足して眺めていたら、パチンと両頬を挟まれて「いて」と声が漏れた。
「…………ばかんえもん」
あ、そういえば好きってさっき初めて言ったかも。
色々すっとばしちゃっただけに反論できないなぁと思いながら、潤んで揺れる名前の瞳を見つめ、もう一度想いを告げるために口を開いた。
1188文字 / 2013.07.13up
edit_square